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「ちょっと咲希! アンタはまたボーッとしてっ! お茶くらいサッサと出しなさいっ!」
いつの間にか、陽輝の妹、咲希ちゃんがコーヒーカップの載ったトレーを運んで来ていた。
「咲希は愛想が無いわ。せっかく真くんが来てくれてるのに、挨拶も無しなんて。ごめんなさいね、ボーッとした子で……ちゃんとしてちょうだい! ホントにノロマなんだから……」
ローテーブルにカップを並べようとする咲希ちゃんの手は少し震えていた。カチャカチャと陶器の触れ合う音の後、コーヒーが少しソーサーに零れた。
「咲希っ! コーヒーくらい上手に出して」
お母さんの言葉に反応を見せないまま、咲希ちゃんは少し頭を下げてからリビングを出ていった。
「ホントにあの子は……ごめんなさいね、可愛げのない子で」
「可愛いですよ、咲希ちゃんは」
僕の少し強い口調に、お母さんは目を見開いて驚いている。陽輝のことを話していた時は憔悴した様子だったお母さんは、咲希ちゃんにはやけに強く乱暴な口調だった。
“父親の代わりに僕が咲希を守ってあげないと ”、陽輝は何度もそう言っていた。咲希ちゃんを助けること、陽輝が居ない今、僕が出来るのはそれくらいしかない。
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