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2. 通り雨と思い出
購入した洋服に着替えた菜花は、歩きながらスカートの裾をもぞもぞと引っ張って、上目遣いに訊いた。
「やっぱり、短い?」
「大丈夫だから堂々と歩きなさい」
「変じゃない? 芋臭い女が、背伸びしてるって感じ?」
「可愛い女の子が、可愛い格好してるって感じ」
「…………ありがと」
菜花は口を窄めて、俯いた。
お世辞なんかじゃない。彼女は最初から可愛かったけれど、近頃は贔屓目なしに、本当に垢抜けた。眼鏡をコンタクトに変え、適当だった髪を美容院で整え、薄く化粧もするようになった。
「あーあ。私の菜花がどんどん変わっちゃう気がして寂しいよ」
「何言ってるの。あたしは真剣に努力したいの。いつもハルちゃんと比べられるこっちの身にもなってよね」
「比べられる? 誰に?」
「学校の子だよ。ハルちゃんとあたしは女王様と家来。シャインマスカットとじゃが芋。CGと粘土細工……」
「待って、そんな陰口言われてんの?」
ていうか、その例え、私も厭なんですけど……。
「比喩表現のバリエーションが多くて感心するよね」
心無い比較をされて菜花は傷ついただろうに、彼女は悲しみを微塵も感じさせない顔で、からっと笑って見せた。
内気な性格でも、意外と芯の強い一面がある。そういうところも好きなのだ。
「だからお似合いカップルになるためにも、多少の変化は大目に見てよね」
「……わかった」
菜花の言葉に深い意味はないとわかっていても、勝手に顔がニヤけてしまう。
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