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3. キャラメルマキアート
濡れたアスファルトから立ちのぼる雨の匂い。菜花が紺色の折り畳み傘を開いて、当然のように私に差し出した。
「ん? ポカンとしてどうしたの?」
「えっと、入れてくれるの?」
「どうせ折り畳み傘は持って来てないでしょ? カフェまで一緒にどうぞ」
菜花は私の腕を引き寄せて自分の小さな傘に入れる。どっちが紳士的なんだか。
私は鞄に入れかけた手を、気づかれぬようそっと戻した。
「……傘、持つよ」
「ありがと。ハルちゃん」
傘の柄を持つ私の手に、菜花が手を重ねた。私より背丈の低い彼女の頭がすぐそこにある。石鹸のいい香りがする。
もしかして菜花も、少しくらい私のこと……と思うのは、きっと自惚れだ。
目的のカフェに入るなり、知った顔の店員が「あれっ。ハル……と、菜花ちゃん!」と声をかけた。ここでアルバイトをしている同級生。
菜花は私の後ろにさっと隠れた。恥ずかしがって上手くコミュニケーションが取れないのも、菜花の悩みの一つである。
「春休みも一緒なんて、二人は仲良いね」
「まあね。私達、デート中だから」
「えっ! それ、マジ?」
「は、ハルちゃんってば~!」
菜花は焦って手をばたばたと振り回した。そういう仕草がオタクっぽいと言われて直そうと努力中のはずなのに。
窓際の席に座ってメニューを広げ、菜花が「ハルちゃん、何にする?」と顔を近づけた。私が選んだトップスがよく似合う。その唇に乗った色は、誕生日にプレゼントしたリップだ。
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