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同級生が、注文したドリンクとスコーンを私達のテーブルに置いた。
「スコーン、頼んでないけど?」
「俺からのサービス。ごゆっくり」
キャラメルマキアートを一口飲んだ菜花は、一瞬、顰め面をする。
「どうして甘いものが苦手なのに、そんなもの頼むかなぁ?」
「だって……可愛いかなって……でもやめとけば良かった。無理、飲めない」
「じゃあ交換」と、自分のブレンドコーヒーと彼女のカップを入れ替えた。
「こんなことだろうと思って、ブラックコーヒーにしておいたから」
「ハルちゃーん。大好き!」
「はいはい。ありがと」
雨が窓を流れる。
天気予報では通り雨らしいが、暗い空模様を見上げると早々に止みそうにはない。
「催花雨だねー」と菜花が言った。
「何、それ?」
「春先に降る雨をそう表現するんだよ。花が開くのを催す雨。つまり開花を急かす雨って意味なんだって」
文学的だ。さすが菜花、そういう分野に明るい。いくらファッションに疎くても、恥ずかしがり屋でコミュニケーションが下手でも、彼女には彼女の魅力があるのだからもっと自信を持ったらいいのだ。
「催花雨か。じゃあ、今日にぴったりだね」
「え? そ、そう?」
私は答えなかった。菜花の頼んだキャラメルマキアートは胸焼けしそうな程甘ったるく、喉が焼けそうに熱かったのだ。
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