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4. 勇気をだして
店内が混雑し始め、私達は予定よりも早い時間に店を出ることにした。通り雨はまだ止む気配がなく、店の裏手で雨宿り。
だんだんと風が強くなり軒先にも雨が入りだす。
鞄から折り畳み傘を取り出す私を見て、菜花は目を丸くした。
「ごめん。今日は持ってたんだ」
「そうだったの。ハルちゃんが傘を持ち歩くなんて、珍しいね」
「うん……実は、いつもわざと忘れてたんだよね」
いざ打ち明けてみると、想像以上の恥ずかしさが押し寄せ、耐えきれずに差した傘で顔を隠した。
「ごめん」
「何で謝るの? 知ってたよ、それくらい」
「えっ。ええっ!?」
「ハルちゃんってクールな見た目に反して、いじらしいところがあるなぁって。私と一緒の傘で帰りたかったんだよね? それがあんまり可愛いから、あたしもわざと知らない振りをしていたの」
か、可愛い?
自分はいつも菜花をそう言って褒める癖に、褒められると照れ臭さのあまり頭が沸騰しそうだ。
もしかして、他の色んなこともお見通しだったりするのだろうか。
「……“right as rain.”」
「何、急に?」
「雨が降ると、思い出すんだよね。ハルちゃんが教えてくれた言葉」
同じときに同じ言葉を思い出す。
そのことは小さな奇跡みたいに感じられた。
「中学二年生でイディオムを知ってるなんて、博識」
「いや、それは」
……菜花の前ではいつだって、格好つけたいから。
「ハルちゃん、本当はもっと上の高校を目指せたのに、あたしのために同じ高校に入ってくれたんだよね」
「まさか。買い被りすぎ。私と菜花、学力は同じくらいだよ」
「違うよ」
「え?」
「あたしとハルちゃん、全然違う。ハルちゃんは勉強が出来るし、身長が高くて美人だし、運動神経も良いし、あたしみたいな暗いやつと一緒にいてくれるような子じゃないよ。釣り合ってないよ」
「釣り合うとか、釣り合わないとか、言わないでよ」
つい苛立ちで語気が強くなる。
「あっ、ごめん。つまり言いたかったのは、あたし、もっとちゃんとしたいっていうか、ハルちゃんみたいになりたいの」
「私みたいに?」
「うん。今日はその第一歩。変わるんだ」
雨が五月蝿い。
「菜花」
「うん。あたし……」
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