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とはいえ、彼女の侍女を辞めたところで、いまさら生家には戻れない。
理想のものが望めないなら手に入るもので我慢するしかない、ということは、これまでの人生で骨身に染みている。
そうしてしぶしぶ仕えているうちに、カティアの修道院行きの話が出た。
自分が生んだ王女がそろそろ年ごろになる正妃が、特に熱心に話を進めた。
ジルの胸に、ぽっと希望の灯がともった。
(でも、さすがに修道女になれば、姫さまもおとなしくするかも……)
万年ふわふわと春を生きているようなカティアも、さすがに女子修道院ではときめく相手を見つけることはないだろう。
もしかしたら自分にも、ついに幸福と呼べる日々が訪れるのかもしれない――ジルはひそかに胸をときめかせた。
他人の感情にふりまわされることのない平穏な日々をようやく送れると思うと、嬉し涙がこぼれそうだった。
そしてあれよあれよという間に、こうして修道誓願の日となった。
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