修道女が恋を夢見てもいいでしょう?

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「見て、ジル! あの騎士のたたずまいったら、ロマンスの主人公みたい!」  王宮をあとにした馬車のなか、侍女のジルは、むかいに座ったカティアをしらっとした目で眺めた。  この国の王女だというのに、主人のカティアの礼儀作法事典には「慎み」だの「品位」だの「恥じらい」だのといった項目はない。  馬車の窓へと身を乗り出し、一心に外の街並みを見つめては、目についた男たちを片っ端から品評している。 「あの南方商人のすてきなこと! 浅黒い肌って野性的よね」  カティアが八人目の男にうっとりした声をあげたとき、ついにジルは、はあっと大きなため息をついた。 「――いいかげんにしてくださいませ、姫さま」  目つきはけわしく、声はとげとげしくなった自覚はあったが、抑えようとも思わない。  もともとカティアは、自分が自由奔放なせいなのか、侍女にも礼儀作法を求めないという妙な公平さがある。 「”おお青き血の乙女よ、一瞥すら授けぬ無慈悲な女神よ”」  詩句の一節を口ずさむと、まるでかわいそうな生き物を見るかのような目で、カティアはジルを見た。 「ジルったら、ほんとに男嫌いなのね。そりゃあいやな殿方だっているけれど、それと同じくらいすてきな殿方だっているものよ。せっかくこれだけの殿方を見られる機会なのだから――あっほら、あそこに法学生が! 制服のローブってなんて知的なの!」
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