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§ § §
心臓が止まらなかったのがふしぎだった。
(ばれたばれたばれたばれたばれた――)
衝撃と絶望がジルの全身を駆けめぐる。
いつ、カティアに気づかれたのだろう。
七年前、彼女の侍女を拝命したとき、正妃からひそかにカティアの暗殺を命じられた。
すぐにではない、カティアが王宮を離れて正妃が疑われないようにしてから――その日までは忠実な侍女としてカティアから信頼されること。それがジルの役目となった。
カティアは最悪な主人だった。
無邪気に誰でも褒めたたえて、ジルをまるで友人のように扱った。
(こんな姫君を殺すなんて――)
だが、やらねばジルが正妃の手の者に殺されるだけだ。
自分だけがさらなる不幸に突き落とされてたまるものか、とジルは自分に言い聞かせ続けた。
主人となったこの姫君は、恋しか頭になかった自分の両親と同種の人間。
不幸な人間を生み出さないために、この世からいなくなるほうがいい、と――。
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