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(でも、でもでもでも)
その一方で、もしかしたら正妃もカティアを女子修道院に追いやることで満足するのではないかと、ひそかにジルは夢見た。
そうなってほしいと心の底から祈った。
しかし昨夜正妃から届けられた毒薬で、その夢はむなしく潰えた。
「”心は常に私を裏切り、惑ってばかりでまるで頼みにならぬもの”――いいのよ、ジル、あなたが何を思っていたって。だけどあなたに殺されてしまうのはやっぱり困るし、それに、これからもあなたと一緒にいたら楽しいと思うのよね」
凍りついてしまったジルに、カティアはかまわず微笑みかける。
「ねえジル、わたしの最愛の恋人、って誰だかわかる?」
逃げ出したいのに体が動かない。
それどころか、カティアから目もはずせない。
ジルはただうつろにかぶりを振った。
「――この国よ」
カティアは満面の笑みを浮かべた。
「最愛の恋人を、もっと豊かに、強く、立派にしたい。だけど正妃さまがいるかぎり王宮にはいられないし、だからといって貴族の夫を持てることもない。だからわたしは、このノガエラ修道院から最愛の恋人に尽くしたいの」
ジルは目をみはった。
自分の主人がそんな壮大な考えを抱いていたとは、まるで知らなかった。
だが思い返してみれば、騎士や農民や商人や職人、この国を支えるすべての者たちにカティアは目を向けていた。
「ねえジル、殿方たちはすてきで頼りになるけれど、ご婦人方にだって負けないくらい魅力があるわ。特にこのサッカムの街のご婦人方は、美しい布を織る熟練の職人として街の力になっているの。だからわたしも、このノガエラ女子修道院を選んだのよ」
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