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すぐさま窓の外へと戻った主人の視線に、ジルはもう一度ため息をついた。
カティアは、おとなしくしていればとても魅力的な姫君だ。
長い褐色の髪はつやつやしているし、優美なドレスが似合う体つきもほっそりとしていながら出るところは出ていて、宮廷詩人が「ばら色の頬、暁の瞳」と形容してきた顔も王宮の華として十分以上の魅力を持っている。
そして意外なことに――としみじみジルは思うのだが――古今東西の書物と音楽に通じた才女でもある。
「そうかもしれませんが、それにしても、姫さまのご趣味には一貫性というものがありませんわ……」
「あら、金髪で肌は浅黒くて痩せ型の殿方がいい、なんて自分から範囲を狭めてしまっては、他の殿方の魅力に気づけないじゃない。魅力的な殿方はひとりでも多いほうが幸せよ?」
ジルが思う主人カティアの唯一にして最大の欠点、それは彼女の恋愛体質だった。
決定的な行動をとるより早く他の男に目が移ってしまうというひどさのせいで、かえって何ごともなくすんできたのだが、カティアが十五歳になったときから七年間、同い年の侍女として常にそばにいたジルは数えきれないほど胃の痛い思いをしてきた。
しかしそんな日々も、ようやく、やっとのことで終わるはずなのに、カティアときたらちっとも変わる気配がない。
ジルは額を押さえた。
「……姫さま、今日がどんな日か、本当にわかっていらっしゃいます?」
「いやね、わかっているわよ――まあ、あれは近隣の農民かしら、あんなにたくましいのに純情でかわいい!」
客にはにかんだ笑顔で野菜を渡す青年に黄色い声をあげたカティアに、ついにジルも負けじと声を張りあげた。
「今日は姫さまとわたしの修道誓願の日です! 世俗を離れた生活を送る幸福に身を捧げる日なんですよ!!」
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