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§ § §
午後、馬車はノガエラ女子修道院に到着した。
荒れ野のただなかにぽつんと建つわびしい建物を想像していたジルは、実際との落差に驚いた。
「”気高き孤独を心に持てば、喧騒もすべて楽園のしらべとならん”」
詩句を口ずさみ、カティアは心の底からあきれた様子で言った。
「ジルったら、なんて顔をしているのよ、まさか鳥も通わぬ僻地に住むとでも思ったの? そんな誰もいないところへ行かされるようなら、とうの昔に逃げ出しているわ」
いらっとしたが、ジルは賢明な侍女らしく黙っておくことにした。
ゆったりと蛇行した川のほとりにそびえるノガエラ女子修道院は、古色蒼然とした灰色の石造りの建物だった。ただ、いくつか新しめの塔があって、それが建物全体に優美な印象を与えていた。
川の反対側はサッカムの街だが、女子修道院とを結ぶ橋の上にまで新しく家が建てられ、岸のこちら側にも街が広がりつつある。
女子修道院前の並木道に下りたカティアが、また何か言いかける。
しかしその前に、彼女のめざとい視線は橋を歩いていた大工たちを見つけて釘付けになった。
「きゃ! 見てよジル、サッカム男性って背が高くてかっこいいのね!」
「……姫さま、さすがにいまはおやめください」
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