1. 教科書からの使者

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 「んー!寝たぁー!」 数学が終わった直後の放課、吉良は起きた。 「んー!寝たぁー!じゃねぇだろ鳳来寺!オレと同じで朝練あったのに、なんでお前は堂々と寝れる!?もう、じゅ・け・ん・せ・い、なんだぜ、オレら!」 吉良の隣に座る男子が呆れ顔で話しかけた。吉良は頬杖をつきながら返事をする。 「んー八事(やごと)、マジメなことゆーねー。おとわんみたいー」 「はん!おとわんみたいだったら数学苦労しねぇわ!」 机の中をごそごそさせながら八事は嫌味をこぼす。少し眉をひそめると、言葉を続けた。 「あー、やっぱねぇや。なぁ鳳来寺、『チャート』持ってない?今日の数学のとこ見たいんだけど」
「んー?あ、あったあった!はい、チャート。今日使ってていいよ。あ、これ貸しね!なんかお礼つけてね!」 お礼を要求しながらチャートと呼ばれた数学の問題集を八事に手渡した。 「えー。わーったよ、なんかつけて返すよ。サンキュー」 「あんた、いつからそんなマジメ君になったの?」 「えー、マジメって。いつまでも走ってばっかじゃいられねぇだろ。五月にやった中間テストの結果を母さんに見られて、『こんな成績じゃ、行きたい大学には行けないわよ!』って言われてさー」 八事は肩をすぼめ、さも今怒られたかのように振る舞う。 「ふーん。じゃあ私も勉強しよーかなー」 頬杖をやめて、机の上に放置された数学Ⅲの教科書を手に取って開く。 「ぬほっ!催眠術が……」 変な声を出した吉良から眠気オーラが発生し出す。 「やっぱ家に帰って一寝入りしてからにしよう!」 意を固めてぱたんと教科書を閉じた。
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