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「初めてお会いしたときからずっと、難しいお顔をされていたものですから」
あっけらかんとしたイリナの言葉に、ぐうの音も出ない。
私は毒気を抜かれたように吐息をつく。
そして意地を張るのをやめ、白旗を掲げることにした。
「その……実は、私はあなたと似ていると思った。それで……」
私の言葉に、イリナは戸惑ったように数度瞬く。
そして、まじまじと私の顔を見つめてきた。
その視線から逃れるように目を伏せ、私は小さな声で告げた。
「実は、私もまともに親に会ったことがない」
※
赤頭公子とは言っても、私の身分は極めて低い。
公の第五夫人の子どもで、加えて末子。
当然継承権は合っても、まず私のところまで回ってくるはずもない。
母は乳母に私の養育を任せきりで、私を抱くことはおろか、顔をあわせることすら無かった。
父親である赤頭公に至っては言わずもがな、いやそれどころか私の存在を知っていたかどうかも怪しい。
見てくれだけは豪華な宮殿の中で、私は常に孤独だった。
同時に、野心を持つ兄弟達からは命を狙われかねないという危険な状況下に、私は常に置かれていた。
そんな私を心配したのだろうか。
黒の都出身の乳母は、私に自らの身を護る術を教えてくれた。
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