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そんな私を無言で見つめていたイリナが、ふと思い立ったように口を開いた。
「失礼を承知でお尋ねします。万一公子様がお隠れになった場合、得をするのは誰でしょう」
思いもかけない問いかけに、今度は私が首をかしげる番だった。
宮中の重臣達、そして自分では何もできないくせに父上の七光で威張り散らす異母兄達。
それらの顔を一通り思い返してみる。
けれど……。
「さあ、まったく見当がつかない。私が死んでも、継承権が繰り上がる兄弟はいないし」
強いて言えば、実学の都で異端とも言える魔道士が消えて、重臣達が清々するくらいかな。
そう私は冗談めかして言う。
けれどイリナは神妙な面持ちでうなずくばかりで、にこりともしない。
一つ照れ隠しに咳払いをすると、常夜灯の光を見つめながら私は低くつぶやいた。
「……けれど、そこまで恨みを買っているとは思えない。いや、思いたくない」
だとすると、本当に黒頭公くらいしか思い当たらない。
正直にそう告げると、イリナはなぜかくすくすと笑った。
「公子様は、本当に預言や運命を信じておられないんですね。不思議な力を行使する術士なのに」
「当たり前だ。そんな物に縛られるほど私は暇じゃない」
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