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心外だ、とでも言うように私は唇を尖らせた。
と、イリナは笑いを収め静かに切り出した。
「わたしは運命とか宿命と言ったものは、少なからずあると思っています。わたしが主と出会えたのは、まさにそうでしょう?」
それに、こうして公子様とお会いできたことも、偶然とは言い難いでしょう。
そう言ってイリナは微笑みを浮かべる。
私は星空に視線を転じながら、ぽつりと言った。
「ならば、私はなぜ黄帝を屠らなければならないのだろう。そんな理由、私にはこれっぽっちも無いのに」
「預言や運命は存在します。けれど、絶対ではない。わたしはそう思います」
その言葉に、私は目の前の騎士をまじまじと見つめる。
微笑みを浮かべたまま、イリナは言葉を継いだ。
「預言は可能性の一つ。そして、運命は変えることができる。わたしは、そう思っています」
だから、わたしも主も先見の預言を信じていないのです。
そう言うイリナに、私はなるほどとうなずいた。
けれど、それを証明するためにはこの砂漠から生きて戻らなければならない。
前途多難だな。
私はそう言って苦笑を浮かべることしかできなかった。
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