Ⅲ.砂漠の牙

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 互いが砂にまみれた姿を見て笑い会う間もない。  轟々という凄まじい音が、どんどん近づいてきた。  同時に周囲の砂が上空に巻き上げられて行くのが見えた。  細かい砂粒が、むき出しの顔に当たってくる。  まともに目を開けていられない。  と、イリナは砂粒の攻撃から守るように私を抱き寄せ自らのマントで包んだ。 「騎士殿、一体何を……?」 「ご無礼は承知の上。ですが、ご覧のような状況です。どうぞお許しください」  言いながらイリナは、マントのフードをすっぽりと被った。  そのまま嵐の中で身じろぎせず留まることしばし。  嵐は一向におさまる気配はない。  そうこうするうちに、私はあることに気が付いた。  そう、私達の周囲に砂が積もり始めていた。  このままでは、本当に砂に埋もれ押しつぶされてしまう。  私はこの時初めて砂漠……自然というものに対して言いしれぬ恐怖を感じた。  ともかく、ここから逃れなければ。  そんな思いにとらわれた私は、イリナの手を振り解き、まだ荒れ狂う砂漠へと飛び出した。 「公子様……!」  風の音にかき消されながらも辛うじて聞こえてくるイリナの声に、私は振り向こうとはしなかった。
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