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とにかく動いていなければ。
砂の中で苦しんで死ぬのはごめんだ。
おぼつかない足取りで、私は砂漠の中を歩き続ける。
けれど一際強い風にあおられて、私の身体は呆気なく倒れる。
悪いことに、そこには谷がポッカリと口を開けていた。
そのまま私は斜面を転がり落ちて行く。
ようやく谷底に到達した私の目に飛び込んできたのは、無数の白骨だった。
おそらくは、私と同様放逐刑に処された者の成れの果て……。
言いしれない恐怖に後ずさった、まさにその時だった。
「様……公……様! どちら……?」
風に乗って聞こえてきたのは、まちがいないイリナの声だった。
「ここだ! 騎士殿、私はここだ!」
その声が聞こえてきた方向へ、私は力の限り叫んだ。
けれど、風は渦を巻いている。
果たして私の声が届くのか定かではないし、私が叫んだ方向にイリナがいるとは限らない。
相変わらず吹き荒れる嵐の中、私は注意深く立ち上がった。
砂の壁に手をつき、吹き付けてくる砂粒から目を守るべく眼前に腕をかざす。
そうでもしなければ、目を開けていられなかった。
「公子様、ご無事ですか?」
不意に声をかけられて、私はあわてて振り返る。
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