Ⅲ.砂漠の牙

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 とにかく動いていなければ。  砂の中で苦しんで死ぬのはごめんだ。  おぼつかない足取りで、私は砂漠の中を歩き続ける。  けれど一際強い風にあおられて、私の身体は呆気なく倒れる。  悪いことに、そこには谷がポッカリと口を開けていた。  そのまま私は斜面を転がり落ちて行く。  ようやく谷底に到達した私の目に飛び込んできたのは、無数の白骨だった。  おそらくは、私と同様放逐刑に処された者の成れの果て……。  言いしれない恐怖に後ずさった、まさにその時だった。 「様……公……様! どちら……?」  風に乗って聞こえてきたのは、まちがいないイリナの声だった。 「ここだ! 騎士殿、私はここだ!」  その声が聞こえてきた方向へ、私は力の限り叫んだ。  けれど、風は渦を巻いている。  果たして私の声が届くのか定かではないし、私が叫んだ方向にイリナがいるとは限らない。  相変わらず吹き荒れる嵐の中、私は注意深く立ち上がった。  砂の壁に手をつき、吹き付けてくる砂粒から目を守るべく眼前に腕をかざす。  そうでもしなければ、目を開けていられなかった。 「公子様、ご無事ですか?」  不意に声をかけられて、私はあわてて振り返る。
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