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果たしてそこには、不安げな表情を浮かべたイリナがいた。
「私は、どうにか。けれど……」
砂の斜面を転がり落ちた時、水と食料が入った鞄を失ってしまった。
こく一刻と姿を変えるこの砂の世界である。
それを探し出そうとすることは危険、いやそれ以前に不可能だろう。
イリナの視線から逃れるように目を伏せると、私はふっと息をついた。
「どうやら、ここまでのようだな」
私をこの地へと送り込んだ重臣達の思惑通りの結末を迎えるのは、私としては本意ではない。
けれど、命綱とも言える水と食料を失った今、私には死を迎える以外の未来はない。
「それでしたら、私の持ち合わせを……」
イリナの申し出を、私は片手を上げて遮った。
「これ以上無関係なあなたを巻き込むのは、心苦しいんだ」
そう言いながら私は苦笑を浮かべた。
そんな私を、彼女は沈痛な面持ちで見つめている。
そんな顔しないでくれ、そう言いながら私はおもむろに左手人差し指の指輪を外す。
突然のことにわけもわからず首を傾げているイリナに、私は静かに告げた。
「これは一種の護符だ。握りしめて念じれば、人一人転移させられるだけの力を込めてある」
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