Ⅲ.砂漠の牙

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 これで主のもとへ帰るといい。  そう言いながら、私はそれをイリナに差し出した。 「いけません! それでしたら、公子様が……」 「あいにく、この枷は完全に私の力を封じている。今の私では、この護符を発動させることもできないんだ」 「そんな……」  言葉を失うイリナ。  そんな彼女に、私は無理矢理指輪を握らせた。 「さあ、早く。砂に潰されて死ぬのは、私一人で充分だ」 「できません! 私は見届け人として、公子様と共に戻ると主に誓いました!」  そうこうしているうちにも、嵐は私達の周囲を吹き荒れている。  足元はすでに砂に埋まりかけていた。 「ならば、青頭公と父に伝えてくれ。私はあなたを守って立派に死んだ、と」 「できません! そんなこと……」 「そう、残念ながらできないね」  突然耳慣れぬ声がした。  いや、ここに私と騎士殿以外の第三者がいるはずがない。  砂嵐の轟音が人の声に聞こえたのか?  一瞬私はそう思った。  しかし、目の前のイリナはとある一点を見つめている。 「騎士殿、一体……?」 「公子様、あれを!」  言いながらイリナは崖の上の一点を指差す。  あわてて視線をそちらに向ける。  と、そこにはいつの間にか誰かが立っていた。
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