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これで主のもとへ帰るといい。
そう言いながら、私はそれをイリナに差し出した。
「いけません! それでしたら、公子様が……」
「あいにく、この枷は完全に私の力を封じている。今の私では、この護符を発動させることもできないんだ」
「そんな……」
言葉を失うイリナ。
そんな彼女に、私は無理矢理指輪を握らせた。
「さあ、早く。砂に潰されて死ぬのは、私一人で充分だ」
「できません! 私は見届け人として、公子様と共に戻ると主に誓いました!」
そうこうしているうちにも、嵐は私達の周囲を吹き荒れている。
足元はすでに砂に埋まりかけていた。
「ならば、青頭公と父に伝えてくれ。私はあなたを守って立派に死んだ、と」
「できません! そんなこと……」
「そう、残念ながらできないね」
突然耳慣れぬ声がした。
いや、ここに私と騎士殿以外の第三者がいるはずがない。
砂嵐の轟音が人の声に聞こえたのか?
一瞬私はそう思った。
しかし、目の前のイリナはとある一点を見つめている。
「騎士殿、一体……?」
「公子様、あれを!」
言いながらイリナは崖の上の一点を指差す。
あわてて視線をそちらに向ける。
と、そこにはいつの間にか誰かが立っていた。
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