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「盛り上がるのは勝手だけど、こっちの身にもなって欲しいな。何かあったら後味悪いんだから」
嵐のせいで顔は見えないが声の調子から察するに、歳は私とさして変わらないくらいだろう。
その人はぽんと飛び上がると、勢い良く斜面を滑り降りて来た。
砂煙と共に降り立ったその人は、かぶっていたフードを外すなり、人好きのする表情を浮かべ私達の顔を見やる。
「何者ですか?」
やや強い語調で言いながら、イリナは腰の剣に手をかける。
それを見るなり、闖入者はくすくすと笑った。
「何者も何も……。この砂漠の住人だよ。それだけ言えば、わかってもらえると思うけど」
その言葉に、私は目を見開いた。
「では、あなたが砂漠の守人なのか?」
「そうとも呼ばれているけどね。ただ自分は、ここに住んでいるだけなんだけど」
そう言う自称『砂漠の住人』を、私はまじまじとみつめた。
長い茶色の髪を背中で束ねたその人は、焦げ茶色の瞳にいたずらっぽい光を湛えて微笑を浮かべている。
そしてふと私の視線は、その人が身につけている毛羽立ったマントの胸元で止まった。
間違いない。
そこに縫い取られていたのは、赤頭公配下の騎士団の紋章だった。
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