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Ⅳ.守人
一向に収まる気配のない嵐の中を、守人は迷いなく歩を進めている。
けれど、なぜか時折足を止め手元にある何かを見、進むべき方向を確認しているようである。
一体何を見ているのだろう。
思わず私は守人の手元に視線を送る。
と、それに気がついたのだろう、守人は私の顔を見るとにっこりと笑い、首から下げているある物を私達に示した。
「海の民や、大陸を行き来する商人達とか、平原で戦う軍隊が迷わないよう使う道具だって。これも父親の形見」
それは、丸いケースの中で細長い小さな石のようなものが揺れている不思議な道具だった。
それを見たイリナが一つうなずく。
「方位磁石、ですね。方角を指し示す物です」
「……魔術じゃないのか?」
いぶかしげに問う私に、守人は片目をつぶった。
「うん。自然の不思議、ってところかな。こんな嵐じゃなければ、太陽を見ていればいいんだけれど」
世の中には魔術以外にも、いろんな不思議なことがあるんだよ。
そう言って、守人は笑った。
そう言えば、赤の都には自然の起こす様々なことを研究する学者がいた。
世の中は魔術だけでは計れないし、実学もまた然り。
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