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「だーかーらー! 言ったでしょ、違うって!」
「いやホントすみません…」
カウンターでPCを打ちながら、ナオがブーブー文句を言っている。
「もうさ、バレバレだったもん」
「なにが?」
「あんたたち! お互い意識しちゃってさ」
「え!? そんなことないよ!」
「そんなことありますぅ。どんなに勤務日や時間違ってもカイさんは必ずもものいる日にしか来ないし、なんならいないとさっさと帰っちゃうし?ももはももでずーっと目でカイさん追ってるし」
「そんなこと」
「ありますぅ。マダムたちも皆分かってるんだから。やっとくっついたってそりゃあ喜んでたんだよ」
ナニソレ、そうなんだろうか…! バレバレだったなんて恥ずかしすぎる!
「で? アパートは結局引き払ったの?」
「あ、うん。なんか安心できないし…」
「同棲?」
「違う違う! そんなの甘えられないし、私と生活水準が違いすぎるから!」
「まじめか」
「あんたが緩いの」
あの後、ストーカーの件が心配だと、カイさんは一緒に暮らそうと言ってくれたけど、まだ学生の身分でそんな風に甘えられないと断った。カイさんは「そう言うと思った」と笑って私の頭を撫でた。
でも、あのアパートは引き払うように言われたし、私もそれは考えていたから、今は会員のマダムに紹介してもらった女子寮で生活している。空きがあるからとすぐに入居させてもらえたのだ。ここからも大学からも離れていて不便だけど、卒業するまでの間だけだし、バイトも大学もカイさんがいつも送迎してくれるようになったから安心して通ってる。…これも十分甘えてると思うんだけど。
卒業したら住む場所を考えなくちゃ。カイさんが一緒に探してくれるらしい。何やら候補があるとブツブツ言ってたけど。
ちなみにカイさんが、あのストーカーについては何とかしたから大丈夫、と言ってた。
何とかって何だろう…。
「ほらもも、来たよ」
ナオの言葉に顔を上げると、丁度カイさんが支度を終えて出てくるところだった。
ざっくりした黒のニットの首元に白いTシャツが覗く。
肩幅が広く顔が小さいカイさんが着ていると、本当にそれだけで様になって美しい。シャワーを浴び終えて前髪を下ろし眼鏡をかけている姿は、スーツ姿も素敵だけど十分かっこいい。うん、本当かっこいい!
「もも」
時々意地悪な顔をするけど、すっかり甘い優しい顔をするようになったこの人を、私はずっと離すつもりはない。
差し出されたその手に手を乗せて、私は今日も大好きな人で自分の好きを補充するのだ。
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