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「もも、おいで」
その甘く切ない声。初めて聞いた柔らかな声。
大きな手が私の腰に回され引き寄せられた。頬を刺す冷めたい風はウールのコートに包まれ遮断される。
抱き寄せられた腕の中はほんのりと香る森の匂い、私の知らない男の人の香り。
大きな手が私の頭を撫でて、冷えて震える唇に柔らかな唇が押し当てられ、喰まれて、ちゅっと音を立てて離れた。
私の頬に、耳朶に、唇を寄せて慰めるようにキスをする。
自分の耳がみるみる熱を持っていくのが分かる。耳元でクスリと笑われた気がした。
「…おい、いつまで見てるつもりだ」
私を腕の中に抱き込んだカイさんは、低い声で背後に立つ人物を威圧した。その人は何事か喚いたけど、こっちはそれどころじゃない。
「もも」
もう一度甘い声で私の名前を呼んで、今度は私の顔を上向かせてかぶりつくような深いキスをする。その熱い舌に翻弄されて思わずコートにしがみ付いて。
くしゃりと私の髪を掴んで貪るようなキスを贈られ、私はクラクラと眩暈がした。
……でも、ねえ、ここまでしてなんて、頼んでない。
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