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「タダで貰えんのに金を払うんだな」
恭は何ともなしに呟いた。
「彼女、口がきけないんです。女給のお給金は少ないし、あれではチップを貰うのも骨でしょう。でも彼女を買いたいわけじゃないから、代わりに僕は燐寸を買うんです」
「お人好し」
「カモでも良いです。お陰で煙草が美味いから」
都司さんは切長の瞳を細め、宝石屋さんのような指を組んだ。
「ところで小夜ちゃんは元気ですか? あんなお別れだったから、時々ふと気になるんですが」
恭はカラフルなハムサラダをムシャムシャやりながら頷いた。
「元気だよ。お前に会ったって言うと怒るけど。私は我慢してるのにって」
「会いたくなっちゃうな。そんなの」
都司さんは悪戯に笑った。
「本当はもっと悪い事を教えてあげたかったけど、あの子は本物のお嬢様だから」
「何だよそれ」
都司さんは笑った。
「冗談です。まあいいですよ。元気なら」
「シャレんなんねえから」
恭はアイスコーヒーを飲み干すとご馳走様と呟いた。
「恭さん、ちょっと歩きましょうよ。一服したい」
「ここで吸えば」
「外が良いんですよ、僕」
「そういうもんかねえ」
恭は椅子に掛けた上着をがさつに取り、だらだらと席を立った。
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