最良の日

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 朝九時きっかりに目が覚めた。薄曇りの雲の隙から、やわらかな冬の陽射しが降りている。ベッドの中でしばしゆったりとしていた。そのうちに玄関のベルを押すけたたましい音が鳴り響く。私は立ち上がり、ガウンを羽織って階下に降りた。 「先生、あら、まだ寝てたんですか。全く独り身の旦那さんは緩すぎていけませんね」  家の手伝いをしてくれている真知子さんがグレーのダウンを脱ぎながら入ってきた。ダウンの下には黄色いエプロン。大きいトートからは薄緑の葉がのぞいている。匂いで分かる。 「おはようございます。今日はかぶを持ってきてくれたんですね」 「うちの畑で抜いてきたばっか。浅漬けでも煮物でも、お好きにしますよ」 「こりゃ、たくさん。新鮮なうちに食べきりたいから、浅漬けとシチューにでもしていただこうかな」 「何でも。美味しいよ。うちの畑のものだからね」  真知子さんは六十を過ぎた野菜農家の嫁だが、お姑さんをおくりだした後は社会と接したくてお手伝い業をしている。開けっぴろげで、他人の家の内実をのぞき見るのは面白いと公言している陽気な婦人。彼女にはずいぶんとお世話になった。とくに一人娘の曜子を東京に行かせた後は、無聊を慰めてくれるよき隣人でもあった。
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