春を迎える

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 待ち合わせの時間よりだいぶ早く玄関の外へ出たのに、(かい)はもう家の前に立っていた。 「理樹(りき)」  高二じゃないみたいに低くて大人っぽい声だ。海が暖かそうな手袋をした手を軽くあげた。ウールのコートにマフラーをぐるぐる巻きにし、イヤーマフまでしている。寒さが得意な俺でも、今夜は出かけるのを躊躇するほど寒い。 「いつからいたの」 「今。お前だって早すぎんだろ」 「鼻、赤い」  海は返事をせず鼻水をすすり、マフラーで隠した。 「理樹。突っ立ってると寒い」 「行くか」  地面の奥まで凍るような深夜の住宅街に白い息が舞う。  真夜中は得体の知れない怖さがあるけど、今夜の空気は柔らかく、暖かささえ感じた。寒いのに暖かいなんて不思議だ。  海とは去年から二人で初詣をしている。有名な神社がうちから近いと知り、みんなで行こうと盛り上がったが、結局来たのは海だけだった。むしろ俺は嬉しかった。二人だけで年の変わり目を過ごせるのだ。今年もみんな来ないだろうということになり、誰も誘わなかった。  海と俺は一歩ずつ踏みしめるようにゆっくりと歩いた。  高校に上がると同時に引っ越したので、近所に知り合いはほとんどいない。貴重なこの時に、顔見知りと遭遇する心配はなかった。  真夜中はひとけもほぼ絶える道に、ぽつぽつと人の姿がある。家族づれがホットココアみたいな温かい笑顔で俺たちを追い抜いていく。自転車に乗った二人組が緩い速度で通り過ぎた。真っ暗なのに世界がきらめいているみたいだ。 「さむ。ダウンでも寒い」 「理樹、細いからな」 「細さは関係ない」 「あるんじゃねえ?」  ぼそぼそと交わし合う声が、白い息とともに消えていく。  もうすぐ年が明ける。  俺たちはこれまでもこれからも、多分ずっと友だちのままだ。海から恋の気配はみじんも感じられない。  海への気持ちはきっとどうすることもできないけど、きっと何年も経った時この日を宝物みたいに思い出すだろう。
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