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光の中から/第1楽章 Very slowly ♩=66
一瞬の事に驚いたが、聡は優しく圭くんを包み返した。
圭くんの体が震えている。
目をきゅっと閉じて、顔を隠すようにもたれかかっている。
少し茶色いふわふわの髪の毛で隠れているけど、
頬や耳が赤くなっているように見えた。
たまらなく切ない気持ちになった。
「聡くん…ごめんね……僕……」
「大丈夫。何も言わなくていいよ。僕も同じだから、大丈夫。」
「聡くん。」
まるで光に包まれているような感覚だった。
聡は曲のテンポに合わせてゆっくりと圭くんを引き寄せて、胸の中へと包み込んだ。
「聡くん、温かい。」
「圭くんも温かいよ。」
「心臓がドキドキしてる…。」
「…うん。」
あの日、学校の昇降口で感じた気持ちが確信へと変わった。
「僕、実は圭くんとこうしたかったんだ。」
「僕もだよ。もっと前から聡くんとこうなりたいって思ってた。」
お互いの気持ちを確かめることができると、2人はより深く抱き合った。
聡は圭くんの頭、首、肩、背中を、優しく撫でるように腕を回した。
圭くんは、聡の胸に身を預けながら、広い肩幅を精一杯ギュッと包み返して応えた。
光の中からお互いの存在や気持ちが一つずつ形になって現れるようだった 。
あの時と同じように圭くんの肩は小刻みに震えているけど、今はそれすら愛おしく感じる。
聡は圭くんの顔が見たくなった。
そして、いつも聡を見上げる瞳、泣きぼくろ、明るいもも色の唇を確かめたいと思った。
伸びやかな第1楽章のクラリネットのソロが響き、余韻を残しながら次の場面へと切り替わる予感を告げていた。
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