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放課後/Esitando
次の放課後、僕は圭くんと部活に行ってみることにした。部活と言ってもさすがに急な話しなので、まずは体験からという事で何とか段取りをつけてもらっていた。
「それじゃ、行こう!」
「よろしく。」
教室を出て、吹奏楽部が活動している校舎まで一緒に向かう。
(こんな時間まで残るのは初めてだな。)
放課後の校舎は独特の世界に包まれている。
昼間大人しかった生徒が別のキャラクターに変身して注目を集めていたり、階段の踊り場で学園恋愛ドラマが始まったりしている。
まるで夜更かしを許された子どものように、僕の知らない世界でこんな時間が流れていたのかと、なんだか見てはいけないような不思議な気分だ。
ふと圭くんが僕の顔を見上げた。
「聡くん、やっぱり背が高いね。並んで歩くのが恥ずかしいよ。僕ももう少し背が欲しかったなぁ...。」
「…背なんか大したことないよ。中学のバレー部の時なんか190cm越えの選手とかいたし、僕なんか全然。」
「190cm!バレー部の人ってみんな大きいもんね。僕は聡くんくらいの背がちょうどいいと思うけどね(笑)」
「.......」
南校舎から北校舎へ繋がる中央廊下に入ると、微かに楽器の音が聴こえてきた。
小学生の頃を思い出す。クラブ活動は真面目に参加しなかったけど、あの頃は演奏よりもただ楽器の音色に夢中で楽しかった。
「場所は北校舎の4階なんだよ。職員会議とか模擬テストの邪魔にならないように、ほとんど使われてない階が僕らのエリアなんだ。」
「楽器の音って大きいから大変だね。」
「うん、大変。音だけじゃなくて場所もとるから…。4階には音楽室と物理室があるんだけど、物理の先生は僕らの事を快く思ってないみたい(笑)…。それよりさ、聡くんを紹介したらみんな喜ぶだろうな!特にトロンボーンパートはね!」
「そうかな...」
「大歓迎だよ!」
「……」
中央廊下の終わりに差し掛かると、色々な楽器の音色が聴こえてきた。
(さすがに緊張する。よく考えたら知らない人だらけなんだよな...。)
北校舎の階段を登って行くとさらに楽器の音色は大きくなり、僕の鼓動のリズムも速くなっていった。
(4階。)
「ここだよ!」
「うん。」
僕は深呼吸をしながら、もう何年も動かしてなかったような口角を上げ、圭くんのいる世界へ足を踏み入れた。
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