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体験入部①/fresco
「圭くん、お疲れー!あっ!須賀くーーん!!久しぶりーー!!」
小学校の時に同じクラブ活動で楽器を吹いていた青田さんが出迎えてくれた。驚いた。オシャレに目覚めたのか、だいぶ見た目が変わっている。高校受験という長い冬が終わり、蛹が蝶に羽化したようだ。相変わらずなのは明るい性格とこのテンション。僕とはまるで対照的だ。
「?!...青田さん、お久しぶり。小学校以来だね。」
「ちょ、『青田さん』とかやめて、普通に呼んで(笑)。」
「えっと…普通?………翔子さん。」
「アハハッ!やっぱ『さん』づけなんだ(笑)。ウケる!」
「……」
「圭くんからしつこく勧誘されたんだよね?いらっしゃいませ!…ってか須賀くん、圭くんと同じクラスなんだよね?圭くん良かったね!吹部の男子ってレアなのに、同じクラスに須賀くんがいたね!」
「しつこくはしてないけど(笑)、須賀くんがいて良かった!奇跡だよ。」
「ね!これは奇跡だよね~。」
「……」
「須賀くんごめん、引いちゃっよね。青田さんはホルンで、須賀くんと同じ金管パートなんだ。」
「そ!今はホルン。ほんとはペット(トランペット)吹きたかったんだけど、うちの部員少ないから強制的にね。ホルンってかわいいんだけど、めっちゃ難いのぉ~。」
「人数少ないって圭くんから聞いたんだけど、自分の好きな楽器を選べるわけじゃないんだね。」
「そうなのぉ。なんか先輩もピリピリしてる感じがしてさ~、雰囲気的に選べる感じじゃなかったんだよねー。そもそもホルンは先輩一人だけだったし。でも須賀くんはトロンボーンだもんね!羨ましー。期待してるね!」
「……」
「青田さん!須賀くん今日は体験入部って言ってたでしょー!話し進めないでよ、もう。」
「あ、すいませーん。久々の須賀氏にテンション上がってたわ(笑)。練習します。」
「青田さん、またあとでー!」
「はいはーい!」
嵐のようなテンションで青田さんが去って行った。
「青田さんって、いつも元気だねー。」
「うん。小学校の時から変わってない。いつも明るくて、みんなのお母さん見たいな感じだった。面倒見もいいし。」
「お母さん!須賀くん、例えが秀逸(笑)。でも、青田さんがいてくれて安心だね!色々聞けるし。」
「うん。」
それから僕は、圭くんと一緒に顧問の先生がいる音楽準備室へ行き、体験の挨拶をした。先生は、僕らと同じくらいのお子さんがいる、優しそうな女性の方だった。
「1年1組の須賀です。よろしくお願いします。」
「顧問の阿部です。須賀くんよろしくね!体験だなんて言わないで入ればいいのに。楽器も空いてるし、貴重な男子部員なんだから。」
「まだ何も決めてないんです。」
「どれくらいの体験を考えてるの?」
「それもまだです…。」
「そうなのね。とりあえず、今日は楽器を吹いてみて、その後の合奏練習まで居れそう?」
「はい、大丈夫です。」
「それじゃ、楽しんで行ってね。圭くん、楽器の準備とかは大丈夫なの?」
「はい!同じパートの高野さんが用意してくれています。」
「それなら大丈夫ね。須賀くん、また後ほどね。」
「ありがとうございます。」
失礼しましたー。
「須賀くん、行こっ!」
「うん。」
廊下を進み、音楽準備室から数えて4つ目の教室に着いた。
金管楽器、メトロノーム、楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「ここだよ! 」
「……うん。」
ガラガラ。
「失礼しまーす。体験入部の須賀くんを連れて来ましたー!」
「こんにちはーーー!!ようこそーー!!」
「やっと来たー!」
「トロンボーンはこっちだよー!」
大変な歓迎っぷりだった。
みんなテンションが高くてとても賑やかだ。
「須賀です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いしまーす!」
「圭くんと同じクラスなんだよね!」
「はい。」
「翔子と同じ小学校で、一緒に楽器吹いてたんだよね?」
「そうなんです。」
「どこ中だったの?」
「西上(にしがみ)中です。」
「西中ね!バレー部とサッカー部が強いよねー。須賀くん、背高いけど運動部だったの?」
「はい、バレー部でした。」
「すごいねー!」
「高校ではバレー部に入らないの?」
「とりあえず、中学で頑張れたからいいかなって。」
「高校では吹奏楽?」
「先生にも伝えたんですけど、とりあえずは体験からという事で…。」
「そうなんだ。うちは初めて楽器吹く人も入部してるから安心だよ?」
「……。」
「みんなストップ!須賀くん困ってるから(笑)。質問攻めごめんね!ウチら一番賑やかなパートらしいんだけど、引かないでね。」
「そんな事ないですよ。」
「みんな自己紹介しない?それから須賀くんに楽器触ってもらおう!それで良い?!」
「はーい!!」
しっかりとした雰囲気の人がその場をまとめてくれてた。
みんな1人ずつ自己紹介を始め、名前と出身中学を伝えた。
最後にトロンボーンパートの順番がやってきた。トロンボーンパートは2年生の先輩と、今年入部した1年生の女子2名のようだ。
「2年の中村 沙希(なかむら さき)です。2nd担当してます!…素人です(笑)。」
「よろしくお願いします。」
(僕らと同じ1年生だと思ったけど!先輩だったんだ。優しそうな人でよかった。)
「1年9組の高野 聡美(たかの さとみ)です。何故か私が1stなんだけどね(笑)。」
「よろしくお願いします。」
(さっき場をまとめた人だ。高野さん、この人が僕の楽器の準備をしてくれた人か。同じ1年生だ。)
「だって聡美ちゃん、経験者じゃん。しっかりしてるし!」
「私、1年生で入部したてなんですけど!」
「…あの、今日は楽器の準備とかありがとうございます。」
「そうそう、聡美ちゃんが準備してくれたのー。」
「いえいえ、どういたしまして。しばらく使われてなかったから、一応中を吹いて、グリスは塗っておいたよ。マウスピースは使う前にもう一度洗った方が良いかも。」
先程から視界に入っていたが、まるで騎士の剣のように、重厚で黄金色に輝くトロンボーンが用意されていた。
「管が複雑なんですね。」
「そう。これはバストロンボーンだから。他の2つに比べて管が太くて、バルブが2ついてるから重くて抵抗が強くて、音を出すのはちょっと大変かも。」
「でも、須賀くんなら大丈夫そうだよね!腕長いし!男子の低音って良いよね!」
「確かに腕も長いから、一番遠いポジションまでスライドが届きそうだよね。」
久しぶりに楽器を見ると新鮮な気持ちに包まれてきた。
無事にトロンボーンパートに合流出来たところまで見届けると、圭くんもパート練習に合流する時間がやってきた。
「須賀くん、あとは大丈夫そうだね!」
「うん。お陰様で。」
「それじゃ、僕もそろそろ練習に行くね。」
「色々ありがとう。」
「また後で!合奏の時にねー!」
「うん。また後で………あ、圭くん!」
「ん?どうしたの?」
「圭くんの楽器って何かな?」
「僕はね、フルートだよ!」
(フルート。)
木漏れ日のような笑顔で答えると、圭くんはパート練習に向かった。
僕は久しぶりに耳にする楽器の音色と、胸に流れるザワザワとした旋律に包まれながら、また少し唇をほころばせていた。
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