1年1組 須賀 聡 /perdendosi

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1年1組 須賀 聡 /perdendosi

「はぁ…。」 頬杖をつき、ひっそりと溜め息を吐きながら黒板を見つめる休み時間。 教室中に響く笑い声、汗と香水の匂いが入り交じる空気、真新しい制服、たくさんの不協和音のようなものの中で、ただひたすらに呼吸をして、今日一日をどうやって生き延びるかを考える。 (昼まで長いな…。) 彼の名は須賀 聡(すが さとし)。 少し前に地元の有名高校へ進学をした。 所属は1年1組。男女共学校だが、今年は男女構成比のバランスがとれず、1年1組のみ男子で構成されているクラスである。 普通の男子高校生だが、中学の時にバレーボール部に所属をしていたので身長は180cmと高く、体育館に集合すると列の後ろ組に分類される。 控えめな性格で、とても運動部出身とは思えない。 外見もこれと言った特徴がなく、黒い髪をさらっと下ろし、オシャレには関心がない。 強いて特徴をあげるなら、時々前髪の隙間から覗かせる奥二重の大きな目と、長くて繊細なまつ毛が印象的である。 長い受験勉強生活が終わり、ようやく憧れの高校生活がスタートしたのだが、早くも目標を見失い、朽ち始めていた。 中学の知り合いもなく、控えめな性格が後押しして、彼はクラスに馴染むことすらできないでいるのだ。まるで定年退職をして時間を持て余している老けた少年のようだ。 「ふぅ……。」 今度は長めに溜め息を吐いて、机の中から次の授業で使う英語の教科書を取り出す。 汚れやクセのない新品の教科書を手に取ると、少し前に感じていたワクワクする気持ちが既に失せていて、代わりによそよそしさのような冷たい感覚に支配されていることを思い知らされる。 (予習は大事ですからね。僕は時間がある時には少しでも勉強しますよ。) そんなふうに、自分とは違う世界にいる若くて元気いっぱいの男の子達に対して、ささやかな抵抗とバリアを張るかの如く英語の教科書をめくる。 (えっと…【Enemy】だから、【敵】か…エネミーって響きが好きだな。そういえば、中学の英語の先生、発音綺麗だったな…。) 「……くん?………須賀くん?」 急に視界の外で自分の名前を呼ぶ声がした。 突然の事で戸惑った。このクラスで誰かが僕の名前を呼ぶなんて、日直当番の引き継ぎか授業中に先生から指される時くらいだった。 (綺麗な声。どこのクラスの人だろう。) 不協和音の中、その声はまるで一瞬の光りのように輝いて見えるようだった。 僕は少し考えて、その声の余韻を一巡りさせてから、おそらく斜め前の方にいるであろう名前を呼ぶ彼の方に顔を向けた。
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