アッチの話してみた の巻

3/3
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「匿名の質問ボックスも置いた方がいいよね……」 「そうね。クローゼットな人の声も集めやすくなるよね」 映見の部屋で、愛実は小さなローテーブルを挟んで映見と顔を突き合わせている。アンケートのために作ったSNSアカウントは、これからも大学生活のさまざまな疑問、意見などを募集する場として残すことにした。五人とも運営に関わるけれど、主な管理者は愛実と映見だ。 「こっちからも時々、テーマを出して意見募集したらいいかも」  それぞれにスマホの画面を見ながら、出てきたアイディアをとりあえず愛実がメモに書き留める。 「愛実は、どんなことを聞いてみたい?」  不意に、映見に問われて顔を上げると、丸いテーブルの向こうから映見がこちらを見つめていた。 「うーん、私は……」  見つめる映見の瞳の中にあるものを探りたいような気持ちが湧いてくる。 「……いまだに恋愛って何なのかよくわからなくてさ。エミーは女の子に恋したからレズビアンだってわかったの? それってどんな感じだった?」  映見は静かに微笑む。 「うーん、そうだなあ。心のどこかにずっとその人が引っかかってて、もちろん他のこと考えてる時もあるんだけど、ちょっとした瞬間にすぐ出てきちゃうみたいな感じ。それで、今何してるのかなあとか、会いたいなあってすぐ思っちゃうから、実際に会えるとすごく嬉しくなって舞い上がっちゃう」  愛実は、ただ感心して「へえ……」と呟く。映見はしかし、にやりと笑って「でもね」と続けた。 「そんな舞い上がっちゃうような気持ちは、ほとんどの人は一生続かないと思うんだよね。恋って結局最初だけの話で、その後の長い時間は、人としてお互い大切にできるかどうかじゃない?」 「あー、恋から愛に変わるみたいな」 「そうそう」  映見はテーブルの上に少し乗り出すようにして、愛実の目を覗き込む。 「つまり、愛実が周りの人を大切にして愛してるっていうだけで、愛実はずっと最高だよってこと」  言葉と同時に、映見の瞳から伝わってくるものを、愛実は感じ取っていた。それは、自分にはない気持ちなのかもしれないけれど、それでも映見はいいんだろうか。 「……まあでも、はっきりレズビアンだってわかったのは、私の場合はもっと単純なことなんだけどね」  首をかしげる愛実に、映見はさらに顔を近づけ声を潜める。 「男の子に性欲は感じない。女の子にしかない」  愛実は妙に感心して「ほお~」と声を上げる。それなら愛実にとってもわかりやすい。自分はどうだろう、と考えてみる。エロティックな想像は、相手が男性の時も女性の時もある気がする。それはヘテロセクシャルではないということなんだろうか。 「あのさ、エミーはオナニーする時……」  言いかけて愛実ははっと止まる。これはさすがにセクハラなんじゃないか。しかし、映見は愛実の手を取って笑った。 「いいよ。愛実の話したい話をしよう」  愛実も微笑む。 これからする話がきっと、自分の中や、二人の中にある不思議を解き明かしていく。そんな気がした。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!