処女とビッチが友達の恋愛相談に乗るの巻

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処女とビッチが友達の恋愛相談に乗るの巻

大学生の会話の九割は下ネタである。──と、波多野愛実(はたのまなみ)は思う。 そりゃさすがに言いすぎかもしれないが、キャンパスで会話が盛り上がっている集団からは、ほぼ猥談か、半径五メートル圏内の恋愛スキャンダルの話しか聞こえてこない。しかし、同じネタで盛り上がっていても実体験が伴っているかどうかは、個々にかなりの差がある。大学入学時点ですでにかなり経験豊富な人もいれば、経験はゼロなのに下ネタだけはいくらでも口から飛び出すようになってしまった者もいる。──そう、愛実自身のように。 九十年代のモダン建築のようなカフェテリアは、すべての学生を受け入れる寛大さを顕示するかのようにキャンパスの中心部にどんと構えていた。広場に面した側は天井までガラス張りになっていて、本来なら開放感ある建物のはずだが、人がひしめき合っている今はそれも実感できない。ほとんどのテーブルはランチをとる学生で埋まり、絶えずざわめき声と食器のぶつかる音で騒がしい。愛実と、田中冬人(ふゆと)、浅倉檸檬(れもん)の三人も、その中で息苦しいランチを取るグループのひとつだ。 まだ入学して間もない四月だけれど、すぐ仲良くなったこの三人に、工学部機械工学科でついたあだ名は「機工科のパフューム」である。見た目だけなら美少女の愛実はともかく、男性である冬人と檸檬にとっては少々不可解なネーミングだ。小柄で中性的な顔立ちの檸檬はまだわかるが、冬人にいたっては、韓流ドラマにでもいそうな長身のハンサムだ。おっとりとした雰囲気が、人の目にはどこかかわいらしく映るのだろうか。なんにせよ、この三人が学科で目立つ存在であることは確かだった。 「やっぱりさあ、学食にしては思ったより安くねえよな」 そう言う檸檬はカレー、愛実はラーメン、冬人はカツ丼。ごく平凡な学食メニューは、味もごく普通だった。 「今日サークル見学とか行く?」 愛実の問いに、二人が首を振る。 「同居してる子と買い物があって」 冬人は同じ大学の他学部に通う幼馴染みと、ルームシェアをしている。 「俺はデート」 檸檬が言うと同時に、愛実と冬人は呆れたような「ああ」という声を漏らす。 「また? もー、入学してからあんたを迎えにくる女やら男やら、何人見たかわかんないわ」 「だって俺、人気者だから」 「人気者なのは本人じゃなくてアッチじゃん?」 愛実の軽口に、檸檬は「失礼な」と顔をしかめた。 「穴(アッチ)も棒(コッチ)も人気だもん」 檸檬のジェスチャーに「ウェー」という顔をする愛実の隣で、冬人は二人の会話を鼻で笑っている。かわいらしいイメージで見られているのと裏腹に、愛実と檸檬の会話はいつもこんな調子だ。食事時に向かないことこの上ない。けれどこの日はさらに、檸檬が聞いた。 「俺のことばっか言うけどさ、お前らはどうなの? 付き合ってる相手とかいないの?」 いつも一緒にいるとはいえ、まだ出会ったばかりで知らないことは多い。「いたらあんたらなんかとつるむか」と毒づく愛実の横で、どうせ冬人も首を振るだろうと思っていた二人は、次の言葉に目を丸くした。 「実は、微妙な関係の幼馴染みがいて……」 正直、冬人は三人の中でも特に恋愛に疎そうだと、愛実も檸檬も思っていた。 「冬っち、恋バナとかする人だったのか」 「幼馴染みってことは地元の子?」 問う愛実に、冬人はうなずく。 「地元の友達とルームシェアしてるって言ったでしょ。その子……」 冬人の言葉を遮って檸檬が驚きの声をあげる。 「冬っちのルームシェアの相手って女だったの!?」 「男だよ」 「はあ!?」 「檸檬だってバイなんだからそんな驚くことないだろ」 「俺のはパンセクっていうの。でもお前のそんな話聞いたことないもん。何、ゲイなの?」 「それが自分でもわからないから、微妙なんだよ……」 冬人は、幼い頃からずっと仲良くしてきたから、自分の気持ちが友情なのか、恋愛なのかわからないのだと言う。 「……でも……」 冬人がもごもごと口ごもる。 「え? なんて?」 「……キスはしてるんだ」 「は!?」 檸檬がまた声を上げた。 「子どもの頃に……」 ああなんだ、と檸檬が呟く。 「お互い意味もわからずに、あっちはお父さんがアメリカ人だったりもして、友情の延長みたいな感じでするようになっちゃって……」 その語尾に、愛実と檸檬は顔を見合わせる。「するようになっちゃって」、ということは、一度ではないということだ。 「でも中学生くらいになるとさ、」 「まあ、さすがにな」 お互いまずいと思ったのだろう、と檸檬は続きを予想した。 「なんかエスカレートしちゃって」 「はい?」 「長くするようになったというか」 「おいまさか、舌まで入れたとか言うなよ」 「いや……」
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