アッチの話してみた の巻

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アッチの話してみた の巻

その放送は、国際学部の教室やラウンジに設置されている各モニターで一斉に流され、学部のサイトでも配信された。 学部長と、斉木教授が順番に画面に映り、それぞれ起こった問題とその深刻さ、学部や学科の対応について話す。とくに斉木教授の言はきっぱりと厳しかった。インターネットでの誹謗中傷は学則にも規定された懲戒対象であり、それも学科の媒体を利用したなら、見逃すわけにはいかないこと。実際に、実行者は特定され、処分を受けたこと。今後、このようなことがないように大学側も力を尽くすとともに、学生たちにもインターネットの利用についてより認識を深めてもらいたい、ということ。 「最後に」 斉木は、そこで一呼吸置いた。 「今回被害に遭った学生からも、コメントを預かっているので、代読させていただきます」 そして、白いコピー用紙を手に持ち読み上げた。 『私がこのコメントを出すことにしたのは、そうすることで、自分自身がより安心してこのキャンパスで過ごせると思ったからです。だけど、とても勇気が要りました。こんなに勇気を振り絞らなくても、私も、私以外の人たちも、怖い思いをせず安心して学べる大学であってほしいと願っています。 私が自分のセクシャリティをオープンにするようになったのは、ハイスクールの一年生の時でした。その時も、たくさん困難がありました。“あなたの個人的な性の事情なんて聞きたくない”とか、“わざわざ他人に話すことじゃない”と言う人もいました。でも、そうしないと彼らは、ボーイフレンドはいるの? どんな男性がタイプなの? と聞いてきます。だから最初は、そういう質問を避けるための手段としてオープンにしようと思いました。 けれど……あるきっかけがありました。 私の両親の生まれた国で、ゲイであることを隠していた青年が、それを他人に公言されてしまったことを苦に自ら死を選んでしまうという事件があったことを、アメリカにいた私は、数年後に知りました。日本の大学に行きたいと思うようになったのも、そのことを知ってからです。 私のような人間がいることを、より多くの人に知ってもらうことが、同じ悲劇を生み出さないためのひとつの助けになるのでは……、そう思っていました。だけど、そうすることで、自分自身が恐怖に晒されることになるとは、想像していませんでした。 正直な気持ち、これからどんな攻撃を受けるのか、怖い気持ちはあります。 でも、これが私の第一歩なんだと思っています。差別やアウティングによって命を失ってしまう人をこれ以上生み出さないために、歩き出した道を戻ることは、私はしません。 どうか皆さんも一度、考えてみてください。誰かのセクシャリティや存在を否定する言葉は、命すら奪う可能性があるんです……』
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