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線香花火を挿したペン立てを持った君が、僕の前にいる。
恐る恐る僕に近づいてきて、「ロウソク、忘れてきちゃって」と、線香花火とマッチボックスを僕に差し出した。持って、だか、あげるだか、その意味は測りかねた。僕は君の目をジッと見つめていると、「ロウソクある?」と小さな声で僕に聞く。
君の頬は冷たい。
吐く息が白い。
指先もきっと冷え切っているはずだ。
「この季節に、線香花火?」
君の足跡だけが、一本の線を作っていた。
道が見えない景色の中で、君の足跡がそれに見える。
僕は家の中からランタンを持ってきて、中のロウソクに火をつけると、君の作った道を歩く。しばらくすると、君の足音も聞こえてきた。
空に瞬く星と、ランタンの明かりだけで歩いていると、世界には君と僕だけしかいないようで、そんな今がずっと続けばいいのにと、後ろを歩く君にも伝える。心の中で。星に願うように。
「星みたいだから」
君がつぶやく。
「僕には、花に見えるよ」
君が、僕の後頭部を見ている気配がする。
「星の花」
星の瞬く空の下で、ランタンの明かりと、線香花火の明かりだけが灯っている。
「それに、あなたとこうしてくっつける」
静かだ。
音も気配も君だけ。
今日は特別な日。
君に頼んだ、君とだけの時間。
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