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イジワルな神様
布団の中で目が覚めた。そろそろ母が起こしに来るはずだ。
3……2……1……
「ヨウコ、いつまで寝てるの。遅刻するわよ」
「はぁい」
「さっさと起きて朝ごはん食べなさい」
母は苛立たしげに言い残し、階段を下りていった。
一階に行くと父はすでに出勤した後だった。母だけがテーブルについている。彼女の視線はテレビに向けられていた。朝の情報番組だ。
ちょうど占いのコーナーが始まったところだけど、結果は見なくても分かる。今日の最下位は射手座のあなた。
「あらやだ。12位ですって」
言ってから射手座の母は私へ視線を振り向けた。
「どうしたの、そんなとこに突っ立って。はやく食べなさい。電車乗り遅れるわよ」
「大丈夫よ」
どこかのバカが電鉄会社に爆破予告の電話をするせいで、電車は大幅に遅れるのだ。もちろんそれはいたずらなのだけど、通勤ラッシュ時のダイヤは乱れ、電車を利用する人のほとんどが予定を狂わされることになる。定刻どおりに家を出ようが遅れて出ようが同じことなのだ。
と、思ったけど口には出さない。
冷めたトーストをコーヒーで流し込み、行ってきますと言って家を出た。
駅はすでに大混乱だった。慌てた様子で電話をする人、駅員を恫喝する人、急いでタクシーを捜す人。反応はさまざまだ。
そんな中、私はあの人の登場を待つ。
「爆破予告があったみたいですね」
その声に振り返ると朝倉ユウトが立っていた。毎朝電車で見かけていた大学生。気になるからいつも目で追っていたら時々視線が合って、最近は会釈するようにもなっていた。彼は私に声をかけるのは初めてのはずだけど、私は何度も話をしている。
「爆破?」と、判っていたけど驚いてみせると、
「電話があったらしいですよ。電車に爆弾をしかけたって。だから全線ストップして調査しているみたい」
「へぇ」
「高校生?」
「はい」
「学校、大丈夫?」
「これじゃあ多分、遅刻かと」
「だったら、遅延証明書をもらうといいよ。講義に遅れそうなんで俺ももらいに行くから、一緒にどう?」
別に私には必要のないものだったけど、断る理由もないので改札口へと向かう。
駅員の前には行列ができていた。そこに並んで待つ間、いろいろ話しをすることができた。名前、年齢、学校。繰り返し聞いたことだけど、初めてのふりをする。
ようやく証明書を受け取ったところで彼が連絡先を訊いてきた。これまでと同じように教えようと思ったところでふと気がついた
そういえば、ここで彼に連絡先を教えるから、後に彼から食事に誘われ、ドライブデートに行き、そしてあんなことを願ってしまったのだ。それでこんな状態に陥ったのだから、連絡先の交換を拒めば彼とデートすることもないし、願いを口にすることもないし、その結果いつもの生活に戻れるんじゃないのか?
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