白い壁

6/12

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「まだ思い出せない? じゃあ、二つ目のキーワードを言うわね。はい、これ」 女性が僕の前に手を差し出して見せたのは、小さな飴玉だった。どこにでもある普通の飴だ。 ……飴? それで何を思い出せというのだ。 「さっ、思い出して。早くあなたと楽しみたいの」 また、訳のわからないことを言っている。僕をからかって何を楽しもうというんだ。楽しいことって何なんだ? 女性の眼孔が、まだかまだかと僕の目玉を突き刺すように見つめている。 せっかちにも似たその女性の眼差しは、焦りと小さな苛立ちを僕にもたらした。 女性が僕に何かを求めている。せっかくだから、もう少しつき合ってみるか。 飴……飴……考えるフリをして、頭を掻いたりポケットに手を突っ込んだりした。その時、クシャ、っと指先に何かが触れた。それは小さな玉が入っている袋、まさに飴であった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加