白い壁

7/12

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「なんでこんなところに……」 「うふ。昨日とおんなじ反応してるわね。本当に覚えていないのかしら。残念だわ」 飴なんて普段持ち歩くことはない。なぜ、ポケットに飴なんかが…… 「昨日は、私があなたにあげたのよ。それをあなた、ポケットに入れていたじゃない。あなたは誰かにあげたことないの? この飴と同じものを」 誰かに……あげる……? ああ、そうだ。一回だけあった。 さっき思い出したバスの時だ。 そのバスに乗った時、咳をしていた男の子がいた。あの時席を譲った男の子だ。かなり辛そうだった。寝相の悪い僕は、その日喉の調子がよくなくて、バスに乗る前に寄ったコンビニでハッカ飴を買った。その飴をその男の子にもあげたんだ。 少し思い出してきた。そういえば確か、バスの中で男の子が刺されたと言われていたが、まさかその子だったのか? いや、だとしてもだ。それと何の因果関係があるというんだ? さっぱりわからない。それに、この女性とは全くの無関係だし、僕が何かをした訳でもない。 そもそも、バスで起きた事件とは無縁な筈だ。 「ねえ、まだ思い出さないの? 早く楽しいことしたいのに。あなたがそんなだと、私ヤキモキしてしまうわ。ねえ、早く思い出して」 女性の目を見た。先ほどよりも強い眼差しで僕を焦らす。この目は僕に対する彼女の愛情なのか、それとも……
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加