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「なんでこんなところに……」
「うふ。昨日とおんなじ反応してるわね。本当に覚えていないのかしら。残念だわ」
飴なんて普段持ち歩くことはない。なぜ、ポケットに飴なんかが……
「昨日は、私があなたにあげたのよ。それをあなた、ポケットに入れていたじゃない。あなたは誰かにあげたことないの? この飴と同じものを」
誰かに……あげる……?
ああ、そうだ。一回だけあった。
さっき思い出したバスの時だ。
そのバスに乗った時、咳をしていた男の子がいた。あの時席を譲った男の子だ。かなり辛そうだった。寝相の悪い僕は、その日喉の調子がよくなくて、バスに乗る前に寄ったコンビニでハッカ飴を買った。その飴をその男の子にもあげたんだ。
少し思い出してきた。そういえば確か、バスの中で男の子が刺されたと言われていたが、まさかその子だったのか?
いや、だとしてもだ。それと何の因果関係があるというんだ? さっぱりわからない。それに、この女性とは全くの無関係だし、僕が何かをした訳でもない。
そもそも、バスで起きた事件とは無縁な筈だ。
「ねえ、まだ思い出さないの? 早く楽しいことしたいのに。あなたがそんなだと、私ヤキモキしてしまうわ。ねえ、早く思い出して」
女性の目を見た。先ほどよりも強い眼差しで僕を焦らす。この目は僕に対する彼女の愛情なのか、それとも……
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