白い壁

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あの時、男の子がハンドクリームを塗り損ねて、隣に座っている人の服にクリームがはねて汚れてしまった。 若いその青年は、男の子を怒鳴りつけて、 それを見兼ねて僕が止めに入って…… ――思い出した。 だけど、それは僕の身体を硬直させてしまうことにはまだ気づけないでいた。もっと早く思い出すべきであった。 「ねえ、白い部屋って、真実を語るにはぴったりだと思わない? あなたに会うことだけを願って、私が内装したのよ。全部が白ってきれいよね。白い色に囲まれていると、嘘をつけなくなるでしょ? 心が汚れたままではよくないわ。さあ、私に告白してちょうだい。あなたのことばを、ずっと心待ちにしていたのよ」 白以外何もなく、薄暗く照らされた灯りだけが僕の存在を弱々しく(とも)されていて、無意味さや無気力を感じ、頭に描き出したものを放棄したくなっていた。 僕は何を間違ったのだろう。 何もかも、いや、思い出すべきではなかったのかもしれない。
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