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(良い・・・、香りがする)
少し甘く。 なぜか懐かしく感じるそれに、琳樹の胸は切なくなり。
その香りに、ずっと包まれていたいという想いに駆られる。
だが、倒れたままに由鈴が動かないことに気付いて、琳樹が慌てて身を起こすと。 彼は息を切らし、夜の空を見上げていた。
「・・・ゆすず?」
「はぁ~・・・、疲れたぁ~」
やっぱり。 竜との追い駆けっこなどという、無謀な事はやめておくべきだったかと、今さらに由鈴は後悔し。
軽く笑いながら、額を押さえ。 上がった息を整えようとする。
玲瓏との駆け引きの後の全力疾走に、さすがに由鈴も疲れ果て。 白い肌をした彼の頬は、淡く上気してピンクに染まり。 それに琳樹はいつしか、見惚れていた。
(胸が、ドキドキして―――止まらない・・・)
「れ・・・玲瓏との、追い駆けっこ・・・。
どうなったんだ?」
「案の定、『捕獲』されちゃったよ。
あと二歩だったんだけどなぁ」
『捕獲』というところで、由鈴はふっと笑みをこぼし。
また残念そうに、彼はため息を押し出す。
「玲瓏って人、強いなぁ・・・。 竜だからか?」
「オレは・・・、弱いけど―――」
自分の身一つ、守れないどころか。
一度ならず、二度も森の裂け目に落ちそうになった事を。 深く恥じて琳樹は顔をうつむかせる。
と、不意にふわりと頭を撫でられ。 驚いて顔を上げると、少し上半身を起こした由鈴が、右手を伸ばして彼の頭を優しく撫でていた。
「琳樹も、強くなるよ。
オレみたいな人間が、手助けするなんて。恐れ多いくらいにね」
「―――ゆすず・・・」
不安そうにする琳樹へと、由鈴は安心させる様にふんわりと微笑み。
雲の隙間から、淡く差し込んできた月の明かりに、由鈴の綺麗に整った面差しが照らし出され。 琳樹の目には輝いて見えた―――・・・。
(―――綺麗・・・)
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