第一章 《小さな竜》

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「オレがちゃんと、あの時にあいつらの事を仕留めておけば。 琳樹にこんな怖い思いを、させる事もなかったろうに・・・。 ごめんな」 「そんな・・・、事―――」  頬を紅潮させ、慌てて首を左右に振った琳樹を見つめて。 また由鈴が優しい笑みを浮かべる。 「ありがとう―――。 琳樹」  真っ直ぐに向けられる薄紫の瞳が、琳樹の姿を映し出し。  その唇が、彼の名を紡ぎだす。  その声は、とても甘く。 優しく・・・。 耳触りが良くて―――。  琳樹は頭が熱を持ったように、ぼうっとして。 他の何も考えられなくなっていくのを感じていた。 「・・・ゆすず―――」 「え・・・?」  どこか夢見心地のままに、琳樹は自分の頭を撫でていた由鈴の―――。  男にしては、ほっそりとした白い手を掴み。  その突然の竜の子供の行動に、驚いて目をみはった彼の前で。 その手の甲に恭(うやうや)しく口付けた。 「琳っ・・・? 痛っ!」  口付けられた途端に。 そこにピリッとした、軽い痛みを伴(ともな)う痺(しび)れを感じ。 由鈴は咄嗟に手を引こうとする。  だが琳樹の手に、力がこもって阻止され。 そのあまりの強さに、由鈴が身を硬くした。 「り・・・琳樹―――?」 『―――・・・』  ふっと、琳樹の唇が何かの言葉を紡ぎ出し。 だがそれを、由鈴は聞き取ることは出来なかった。  風の音のようなそれは、竜の言葉で。 人間である由鈴には理解出来なかったのだ―――。 「なに・・・を―――?」  まるで呪縛をかけられてしまったかのように、自分の姿を映し出す琳樹の藍色の瞳から、由鈴は目を逸らすことが出来ず。  肌を刺すような、ピリピリとした気配に震える。 (『逃ゲナキャ・・・。  逃ゲナイト駄目ダ―――!』)  本能的に。 直感的にそう頭で警告が鳴るというのに、体はちっとも動いてはくれず。  引き寄せられるように近づいてくる琳樹の瞳に、由鈴は息を飲む。 「見つけた・・・。 オレの―――」 「んっ・・・ぅ!?」  睦言(むつごと)のように、琳樹がそう囁(ささや)いたと同時に。 今度は唇を奪われ。  稚拙(ちせつ)ながらに、舌が絡み付いてきて。 由鈴はぎゅっと目を閉じた。 (何を・・・何を―――!? 琳樹!!?)
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