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『逃げたい』 『逃げ出したい』と思うのに。 由鈴の身は目に見えない何かにゆるやかに束縛されてしまったかのように、全く動くことが出来ず。
琳樹によって片方の手を掴まれたままに、存分に口内を掻(か)き乱され。 呼吸さえも奪われて、由鈴はひたすら混乱と動揺に身を硬くするしかなく―――。
やっと解放された時には、軽い呼吸困難になって目の前が揺らぎ。 倒れ込みそうになった。
「はっ・・・ぁ・・・」
微かに、由鈴の目尻に涙が浮かび。 頬が鮮やかに紅潮する―――。
それは、長い口付けからによる、息苦しさの末であるのか。
それとも、十歳前後といったくらいにしか見えない琳樹によって、唇を奪われてしまった事に対する。 動揺ゆえなのかは、由鈴自身にも分からなかったけれど。
とにかく、琳樹の顔を見る事も出来ずにいる内に。 また彼の小さな手が、今度は由鈴のほっそりとした首筋へと這(は)わされ。
びくりとまた、身を強ばらせる。
「琳樹、やめっ・・・―――!」
次に何をされるか、もちろん分からないままに。 由鈴は咄嗟(とっさ)に、『やめてくれ』と叫びそうになり。
だが琳樹の瞳を見た途端に、それは頭からかき消された。
そして真っ白になった頭のままに、茫然(ぼうぜん)としたように琳樹が自分の首筋へと、唇を寄せていくのを見つめ。
その次の瞬間―――。
そこに熱い焼きごてを押し付けられたような衝撃を感じて、由鈴は悲鳴をかみ殺した。
「っ―――・・・!!!?」
一瞬。 何が起きたか分からず、反射的に由鈴は首筋を仰け反らせ。
それにより、一層にその熱が増して。 身を震わせる。
「り・・・んじゅ―――」
ふっと・・・。 鼻についた匂いによって、やっとその焼き付くような熱の正体が、琳樹によって首筋に噛(か)み付かれた事による、激痛であるのだと分かった。
そして、周りに満ちていく。 錆(さ)びた鉄のような、自身の血の匂いを感じて。 由鈴の意識が遠退きそうになる。
「やっと・・・、見つけた―――」
白く、柔らかな皮膚を裂き。
そこから溢れる生温かな。 甘く香しい、由鈴の血をゆっくりと舐めとりながら。 琳樹は紅い血に濡れた口元に笑みを浮かべてまた、小さく囁く。
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