第一章 《小さな竜》

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      * * * (逃げないと・・・。 早く、早くっ・・・!!)  ガサガサと、草木を踏み付け。 森の中を、小さな影が駆けていく。  その後ろからは、多くの足音が追い掛けてきていて。 『琳樹(りんじゅ)』は、必死に前だけを見つめて走り続けていた。  ずっと走り続けていたために、もう息は切れ切れで。 足もフラフラだった。  苦しくて苦しくて、時折に目が霞み。 今にも倒れこみそうになりながら、ただ『捕まってはいけないのだ』という意識だけで、必死に足を動かし。 追い掛けてくる足音から逃げ続ける。  ―――しかしそれも・・・、もはや時間の問題であった。 (玲瓏(れいろう)・・・助けて!)  いつも自分の傍に居てくれた存在を、琳樹は願うように呼ぶ。  だがその彼は、さっき自分を逃がすために、自ら囮になってくれたのだ。  だから、いくら呼んだとしても。 ここには来られないだろう。  独りぼっちの淋しさと、恐怖に泣きそうになり。  しかし、グッとそれに耐えるように唇を噛み締める。  と、その次の瞬間であった。 「危ないっ!」  突然に、誰かのそんな声が響き。  それに顔を上げる間も無く、琳樹の足が空を踏む。 そしてその先に見たのは―――、深い闇の様な地面の裂け目であった。 (どうして、こんな所に裂け目が・・・!?)  琳樹が息を飲む間も無く、その裂け目へと身体が吸い込まれていく感覚がし。  もう駄目だと感じて、咄嗟(とっさ)に琳樹は固く目を閉じる。 「っと・・・!」  微かな声―――。  そして右手に、温かな気配がし。 落下感が消える。  それで、うっすらと目を開けると。 目の前には淡い光があった―――。 (・・・月?)  いつの間にか、夜の空に昇っていた月を背に。 誰かが裂け目へと飲み込まれ様としていた琳樹の手を、掴んでいた。 (―――誰・・・? 玲瓏・・・?)  自分を助けてくれたその相手の姿を、琳樹は懸命に見つめようとする。  だが、ずっと走り続けて疲労した身体は一度それを止め。 諦めてしまった事で、鉛のように重たく。  緊張の糸が途切れてしまったのか、意識が朦朧(もうろう)としていた琳樹は。 そのまま意識を失ってしまったのだった。  右手に感じる、誰かの手の温もりを。  確かに、感じながら―――・・・。
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