第二章 《竜の聖印》

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第二章 《竜の聖印》

 遥かな昔―――。  とても小さな国の、小さなお城に住む、小さな姫が。 城の庭で傷つき、倒れている竜を見つけました。  まだ若きその青年竜は、とてもとても深い傷を負い。 命の危機さえありましたが、小さな姫と小さな国の優しき人々の助けのおかげで、何とか命をとりとめ。  しかし、空を羽ばたく大切な翼を痛めてしまっていたため。 完治するまでのしばしの間を、竜はその小さな国で過ごす事となりました。  まだ小さく幼き姫は、すぐにその竜の事が好きになり。 毎日毎日、小さな足音をさせて、彼の元へと通い。 毎日毎日、たくさんの話をしました。  庭に咲いた花の事。 遠くに見える、森の事。 時おりに窓辺に訪れてくる小鳥達の事。  そして姫を大切に想ってくれている、父王や城の人々と国の民達の事。  姫は、この小さな国の。 小さな城の。 小さな世界しか知りませんでしたが。 竜は毎日、くるくるとよく変わる姫の表情と笑顔を眺めながら、その話を聞き。 そのお返しに、竜は自分達が暮らす竜の都の話を話して聞かせました。  夢か幻かとまで言われる、美しき都。  そこでは、たくさんの竜達が暮らし。 彼はその都の、まだ若き竜王でした。  ですがまだ王になって間も無き彼を、不満に思う者も居り。 この傷もそんな仲間達から負わされたものでした。  けれど、この無垢(むく)なる少女に、そのような事を告げる事もなく。 聞かされた竜の都への憧(あこが)れの気持ちを素直に表す姫に。 竜もまた心和まされながら、長く短き日々は過ぎ行き。 やがて翼の傷も癒え、ついにこの小さな国から竜が発つ時が訪れました。  姫はもちろんの事、竜との別れをとても悲しみ。 行かないでと泣きましたが。 竜も都を守る王であるため、どうする事も出来ず。 別れる間際に、一つの約束をしました。 『いつかまた、きっと私はこの国を訪れよう。  この、まだ小さき姫に再び会いに来よう』 と―――・・・。  姫はそれをとても喜び。 泣きはらした赤い目で、明るく笑うと。 小さな小指を差し出しました。 『約束よ?竜さん。  きっとまた、会いに来てね?』  小さな姫と若き竜は、しっかりと指切りをして別れ。 竜は遠い空へと翼を広げて飛び立ち、姫はずっとずっとその姿が見えなくなるまで、見送っていたのでした。    『竜王と小さな姫』
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