第二章 《竜の聖印》

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     * * * 「誰か、嘘だと言ってくれ・・・」  今の心情を、一言で例えるならば、正しくそれに尽き。  由鈴は一人、足取りも重々しそうに歩きながら。 もう何度目かも分からない深々としたため息を押し出すと、その場に崩れ落ちそうになるのを懸命(けんめい)に思い止まる。 (何で、こんな事に・・・)  これまた、もう何度目になるか分からない問いを、心の中で呟いて。 由鈴は再びため息を押し出し。  ついに進めていた歩を止めて、その場にしゃがみこんだ。  そして己の膝頭に額を押し付けて目を伏せ。 低く、「あぁ~・・・」と疲れたような声をもらす。 「本当、誰か嘘だって言ってくれよぉ・・・」  懇願(こんがん)するように、由鈴はまた小さく呟いて。 ふと何気ない仕草で、自分の首筋―――。  包帯が幾重かに巻かれたそれへと、指を這わせる。  そして、それが嘘でないという証のように思えて。 今度は途方に暮れたようにその場にしゃがみこんだまま空を見上げた。 (あぁ、よく晴れてるなぁ・・・今日は)  気持ちの良いほどによく晴れた青い空を見上げて、由鈴はまたため息を吐いた。 「『花嫁』・・・かぁ」  そうポツリと呟いて。 由鈴は青い空をぼんやりと見上げながら、数日前に突然自分の身に降りかかった災厄とも言える衝撃の記憶に、思いをはせるのだった。      * * * 「う・・・ん―――」  小さくうめき、重い目蓋(まぶた)を押し上げると。 そこは森の中だった。  一瞬そこが、どこか分からず少し困惑し。 だがしばらく周りを見渡した末に、そこが由鈴にとっては来慣れた森であると分かり。 徐々に記憶を掘り起こす。 (そういえば、オレどうして・・・?)  旅の途中で、ここに寄り。 森のあちらこちらに在る裂け目が、少しばかりの賊避けになるだろうと考えて、ここで野宿する事にしたのを思い出し。  だが夜半の頃の記憶が、どこかおぼろげで。 眠った時の記憶が無い事に眉をしかめる。  だが、とにもかくにも。 身を起こそうとすると・・・。 「・・・え?」  自分のすぐ傍で、寄り添うようにして眠る子供の存在に気付いて、目をみはり。  その綺麗な黄金色の髪と、少年の顔をじっと見つめる内に。 昨日の記憶が少しずつ思い出された。 「―――琳樹・・・?」
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