第二章 《竜の聖印》

3/20
前へ
/415ページ
次へ
 野宿の場所を探して歩いていた時に、この黄金色の髪をした子供―――。  今や、夢物語や。 言い伝えにしか現れない、幻の存在である『竜』の子供であるらしい琳樹が。 森の裂け目に落ちそうになったのを見付けて、咄嗟に助け出し。  どうやらハンター達に追われているらしいと知って、ちょっとでも助けになればと面倒を見たのだけれど・・・。  そこに琳樹の連れである、もう一人の竜の玲瓏が現れて、彼に敵だと判断されて襲われかけ。  信じてもらえたかと思えば、変な話のなり行きになって駆けっこをする羽目になり―――。 そして・・・。 「あれ・・・?」  再び森の裂け目に落ちかけた琳樹を、間一髪で助け出したその後の記憶が、急に霞(かす)みがかり。  それに眉をしかめて、小さく呟いた時。 傍でふっと、風が揺れるような気配を感じてそちらへと顔を上げると。  朝の光に輝く白銀の髪をした青年が、森で採ってきたのであろう果物を抱えてこちらへと歩いてくるところであった。 「ええと・・・、玲瓏?」  寝起きのせいか、混乱のためか。 どこか頭の回転を鈍く感じながら、何とかその青年の名を紡ぎだし。 何か問おうと口を開きかける。  だが由鈴が何か言う前に、低く落ち着いた声で玲瓏が言葉を差し込んできた。 「お身体の具合はいかがですか?」 「え・・・?身体?」  わけが分からず、由鈴は困惑し。 『大丈夫だ』と答えようとして、不意に喉の辺りに鈍い痛みを感じる。 「え!?」  それに驚いて、由鈴は自分の喉を押さえ。  そこに包帯が巻かれ、手当てがされてあると分かって、動揺する。  由鈴には、いつそこに怪我をしたのか。 思い出す事が出来なかった。 「すぐに傷口は塞がるでしょうが、痕(あと)は残るかと思います。  印のようなものですので」 「・・・印(しるし)?」  いったい何の『印』だと問おうとした時。 それまで眠っていた琳樹が、小さく身じろぎして目を覚まし。 うっすらと藍色の瞳を開き、緩慢(かんまん)な動きで瞬かせる。 「いい・・・香り」 「香り・・・?」  寝言だろうかと思って、見つめる中。 琳樹がやっと目が覚めてきた様子で、淡く澄んだ大きな藍色の瞳に、由鈴の顔を映すと。 パッと明るい笑みを浮かべた。 「由鈴!」 「えっ!?」
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2524人が本棚に入れています
本棚に追加