第二章 《竜の聖印》

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 飛び付くように琳樹に抱き付かれて、由鈴は驚き。 猫のように頬をすり寄せられ、くすぐったくて笑う。  だが次の瞬間。 玲瓏に告げられた言葉に、頭が真っ白になった。 「人が、竜王の聖印をお受けになる事は滅多に無く。  場合によっては、そのあまりの衝撃に命を落とす方もいらっしゃると聞きますので。 ご無事な様で安心いたしました」 「は・・・!? ―――竜王の・・・、聖印!!?」 「この玲瓏。 心より、お喜び申し上げます」  胸に手を当てて、玲瓏が恭(うやうや)しく頭を下げ。  それを茫然(ぼうぜん)と・・・。 唖然(あぜん)と見つめて、由鈴はあまりの事に思考が付いていかず、頭がぐらりとし。  そしてそれと同時に、やっと。 昨夜の記憶が、まだおぼろげながらも思い出された。 「そ、そっか・・・。  昨日、いきなり琳樹に噛みつかれて―――オレ」  琳樹に抱きつかれたままに、由鈴は昨日の事を思い出そうと額を押さえ。  だがそれと玲瓏の言う、『竜王の聖印』というものが結び付かず。 改めて白銀の髪の青年を見上げた。 「その・・・『聖印』ってのは、竜が―――。  『竜の王』が、自分の『伴侶(はんりょ)』となる相手に与えるものだと・・・。 どこかの古い書で、見た記憶があるけれど・・・?」 「よくご存じですね」  本当に驚いているらしい様子が、玲瓏の声音に含まれ。  だが由鈴にとっては、そんな事に構う余裕(よゆう)など無かった。  混乱し、現実逃避をしたくなる意識を懸命に引き止めて・・・。 必死に言葉を頭の中で整理し、何を言うべきか。 問うべきかと考える。 「・・・その、『聖印』と。 オレと・・・どういう関係が―――?」 「成り行きは、存じませんが。  どうやら貴方様は、琳樹様の竜の花嫁に選ばれたようです」 「は・・・花嫁!!?」  信じられず、愕然(がくぜん)として由鈴は叫び。  そして、無邪気に懐(なつ)いてくる琳樹の顔を見つめて、今度こそ現実逃避したくなった。  ―――だが現実は、そう簡単にそれを許してはくれないのだ・・・。 「これからも、ずっと由鈴と一緒だよね!!」  とても嬉しそうに、明るい笑みを浮かべて琳樹が言い。  説明は終わったとばかりに、玲瓏が朝の食事の用意をし始める。
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