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そして一人、混乱の渦(うず)に取り残されながら。 由鈴は頭を抱えた。
「ちょっと待て。 聖印って・・・伴侶って何だ?
オレは男だぞっ? 琳樹だって男だろ!?
それが何で、竜の『花嫁』なんてものになるんだよっ―――!!!」
一息に、そう由鈴は叫ぶように言い。
だがそれを、琳樹は理解出来なかったのか。 きょとんと目を丸くし。
―――玲瓏はと言うと、全くこちらを見る気配も無かった。
「玲瓏!!」
噛み付くように、由鈴が名を呼び。 それでやっと玲瓏が、朱色の涼やかな瞳をこちらへと向ける。
ちなみに。 この『聖印』の原因というか・・・。 由鈴にそれを刻み込んだ、その本人である琳樹に説明を求めなかったのは・・・。
何というか、ちゃんとした答えをくれない気がしたからであった。
「琳樹様が、由鈴さんをお選びになった。 それだけの事です」
「―――・・・な。 それだけって・・・」
至極(しごく)当然とばかりに言われて、由鈴は呆気にとられ。
ついに耐えきれず、そのままバッタリと。 琳樹を首に絡み付かせたままに横倒しに倒れ込む。
「わっ・・・由鈴!?」
急に倒れた由鈴に、琳樹が驚いた声を出すが。 それに構うことも出来ず。
いっそ卒倒(そっとう)でもしてしまいたかった。
(~~~何で、こんな事に・・・)
古い書物や、言い伝え。
もしくは、伝説として『竜の聖印』というものを。 由鈴も聞いた事はあった。
そればかりか。 彼が育った村には、古くから『竜の花嫁』の話が言い伝えられており。
一人の小国の姫が、偉大なる竜王と心交わせ。 美しき竜の都に迎えられるという話を、物心つく前から何度も話して聞かされ。
一様に、村の少女達はその竜の伴侶となった姫に、憧れを抱いていたものだった。 けれど―――・・・。
(それがまさか、自分が選ばれるなんて―――・・・)
昔語り好きな村の年寄り達が聞いたら、喜ぶのだろうか?
村の友人達は、笑うだろうか?
だが、何よりも―――。 今でもきっと、あの言い伝えに憧れを抱いているであろう少女達が、これを聞いたら。 どう思うだろうかと、そんな他愛もない事をつらつらと考え―――。
だが結局それは、少しばかりの現実逃避にしかならず。 由鈴が次に起こした行動といえば―――、何とも情けないものであった・・・。
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