第二章 《竜の聖印》

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 そして一人、混乱の渦(うず)に取り残されながら。 由鈴は頭を抱えた。 「ちょっと待て。 聖印って・・・伴侶って何だ?  オレは男だぞっ? 琳樹だって男だろ!?  それが何で、竜の『花嫁』なんてものになるんだよっ―――!!!」  一息に、そう由鈴は叫ぶように言い。  だがそれを、琳樹は理解出来なかったのか。 きょとんと目を丸くし。  ―――玲瓏はと言うと、全くこちらを見る気配も無かった。 「玲瓏!!」  噛み付くように、由鈴が名を呼び。 それでやっと玲瓏が、朱色の涼やかな瞳をこちらへと向ける。  ちなみに。 この『聖印』の原因というか・・・。 由鈴にそれを刻み込んだ、その本人である琳樹に説明を求めなかったのは・・・。  何というか、ちゃんとした答えをくれない気がしたからであった。 「琳樹様が、由鈴さんをお選びになった。 それだけの事です」 「―――・・・な。 それだけって・・・」  至極(しごく)当然とばかりに言われて、由鈴は呆気にとられ。  ついに耐えきれず、そのままバッタリと。 琳樹を首に絡み付かせたままに横倒しに倒れ込む。 「わっ・・・由鈴!?」  急に倒れた由鈴に、琳樹が驚いた声を出すが。 それに構うことも出来ず。  いっそ卒倒(そっとう)でもしてしまいたかった。 (~~~何で、こんな事に・・・)  古い書物や、言い伝え。  もしくは、伝説として『竜の聖印』というものを。 由鈴も聞いた事はあった。  そればかりか。 彼が育った村には、古くから『竜の花嫁』の話が言い伝えられており。  一人の小国の姫が、偉大なる竜王と心交わせ。 美しき竜の都に迎えられるという話を、物心つく前から何度も話して聞かされ。  一様に、村の少女達はその竜の伴侶となった姫に、憧れを抱いていたものだった。 けれど―――・・・。 (それがまさか、自分が選ばれるなんて―――・・・)  昔語り好きな村の年寄り達が聞いたら、喜ぶのだろうか?  村の友人達は、笑うだろうか?  だが、何よりも―――。 今でもきっと、あの言い伝えに憧れを抱いているであろう少女達が、これを聞いたら。 どう思うだろうかと、そんな他愛もない事をつらつらと考え―――。  だが結局それは、少しばかりの現実逃避にしかならず。 由鈴が次に起こした行動といえば―――、何とも情けないものであった・・・。
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