第二章 《竜の聖印》

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『とりあえず、少し時間を下さい・・・』  混乱した頭を、整理したくて。  そしてとにかく、落ち着かなければという一心で。 由鈴は二人の竜にそう懇願(こんがん)し。  その場から逃げ出してきたのだった・・・。       * * * 「って・・・。 頭を整理させても、どうするんだオレ・・・」  『時間をくれ』と言ったものの、期限は特に決めず。  数日経った今では、正直。 途方に暮れた気分だった。  出来るかどうかは、分からないが。 それなりの決心が出来た場合は、あの森へ戻ればいいのだろうかとか。  その内に、迎えが来るのだろうかとか。 そんな事を考え・・・。  だがかといって、今迎えに来られても。 どうすればいいのか、分からなかったりする。 「このまんま、迎えなんて来なくて・・・。  実は、からかわれただけの冗談だったり―――」  そう小さく、希望的観測を呟いて。  だが竜が、偽りの言葉を口にしない存在であるという事を思い出して。 そのまま肩を落とす。 (・・・竜が冗談を言うなんて、一番有り得ない話だな・・・)  そうして結局は、堂々巡りとなって。 由鈴は再びため息を押し出し。右手のグローブを外して、その手の平を空へと掲げるようにする。  その手の甲には、不思議な紋様(もんよう)をした印が刻まれており。  琳樹達と離れた後になって気付いたのだが、胸にも同じような印が刻まれてあった。  そしてそれが多分・・・。 竜の伴侶に選ばれた、証である『聖印』というものなのだろう。 「は―――・・・ぁ」  もう、思い切り。 いっそわざとらしいまでに、胸いっぱいに息を吸い込んで。 盛大なため息を吐いて腰を上げかけた時。  ふっと、何かヒヤッとするような気配を感じて。 由鈴は無意識のままにそちらへと顔を向ける。  と、いつの間に現れたのか。 男が一人、にやついた笑みを浮かべて立っており。  視線をめぐらせば、その男の後ろから。 数人の人間がそれぞれに手に武器を持ち、集まってきていた。 (山賊か、追い剥ぎかな・・・?  でも、何だろう・・・?)  それは一見、ごく普通の人間に見えた。
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