第二章 《竜の聖印》

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 だがその間にも、手下達は次々と襲いかかってきて。 そちらに視線を向けずに倒していくには、かなりの苦戦と労力を要し。  何よりも、神経の疲労は大きく。 やっとの事で、あらかたの敵を倒した時には。 由鈴は肩を上下させて息を切らせ、避けきれず負った掠り傷が、腕にいくつかあった。 「オレを警戒しつつ、手下達を倒すとはな。 良い腕をしている」  変わらず。 ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべて、男は言い。  額から伝い落ちてきた汗を、手の甲で拭い。 上がった息を整えようとしながら、由鈴はキッと瞳を鋭くする。 「お前、何者だ?  人間じゃないな?」 「ふふふ・・・。 竜に見初められた人間というのは、高く売れるんだろうな。  その上、その容貌(ようぼう)に。 瞳となれば―――。 その値はいかほどになる事か・・・」 「!?」  男の言葉に、由鈴は目をみはり。 それを眺めてまた男が笑みを深くした。 「何だ? その明白な香りを漂(ただよ)わせていながら、気付かぬとでも思っていたか?  純粋なる竜と交わり、印付けられた人間。 『竜の花嫁』よ」 「ま・・・交わりって―――」  言葉の意味に気づいて、由鈴はカアッと頬が紅潮し。 つい、「そんな事していない!」と叫びそうになる。  だがそれを言ったとて、何か意味があるわけがなく。  だがそう思われるのも、何とも恥ずかしくて。 由鈴は恥辱(ちじょく)に堪え。 唇を噛み締める。 「それに、竜の花嫁を手中に収めれば。 竜王は必ず現れるだろう。  そしてオレは、その血を手に入れ。 正真正銘の、伝説の竜へとなるのさ」 「―――あんた、竜の血を引く人間か」  男から感じる不可解な気配の正体が、やっと分かり。 由鈴は構えた拳を、強く握り締めた。 「なるほど・・・。 どうりで、人とは違うものを感じるわけだ」 「そうさ。 オレは神がごとき竜の血を受け継ぐ者・・・。  神になる権利を持つ、人間さ」  恍惚(こうこつ)とした男の言葉と顔に、由鈴はふつふつとした怒りを覚える。 「戯(ざ)れ言だな」  言い捨てるように由鈴は淡々と言い、それに男の顔に怒りが浮かぶ。  だがそれを、侮蔑(ぶべつ)を含んだ眼差しで見据え。 彼は身を低めて構えをとった。 「お前みたいなゲスが、神になれるもんか。  もちろん竜にだって、なれるわけがない」
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