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* * *
『貴方は、竜達の長たる黄金竜の。 最後の生き残りなのです』
『おさ? おうごんりゅう?』
『やはり何も・・・。 覚えては、いらっしゃらないのですね―――? 琳樹様』
そう悲しそうに。 そしてどこか淋しそうに言ったのは、白銀の髪をした青年であった。
『玲瓏』―――。
それは、自分と同じ『存在』であり。 この世界で『目覚めて』から、最初に覚えた。 たった一つの名前だった。
そして彼に、自分は人に決して捕われてはならないのだと、教えられた。
人々は、自分を狙い追ってくる―――。
故にその手から、自分はずっと逃げ続けなければならないのだと。
けれど時々―――。 恐ろしく思うはずの《人間》に対して、ふと温かな。
どこか、愛しさにも似た想いを自分が抱くのは・・・。
何故なのだろうか―――・・・?
*
*
*
「ぅ・・・ん」
深く暗い水底を、たゆたう様な―――。
そんな感覚を抱きながら、琳樹が重く感じる目蓋を押し上げると。 目の前には森の木々が広がり。
その向こうに、夜の空が見えた。
そしてパチパチと。 何かが傍で小さく爆ぜる音と肌に感じる温かさに、まだぼんやりとしたままそちらへと目を向けると。 そこでは火が焚かれてあり。
その焚き火の傍で、川魚が木の枝に刺されて焼かれ。 その香ばしい匂いが、琳樹の鼻をくすぐった。
(オレ・・・どうして?)
懸命に記憶を探り、何があったか思い出そうとする。
だが、まだぼんやりとした頭では、うまく考えがまとまらず。
それに歯痒い思いをしていると、こちらに近づいてくる誰かの足音がした。
「大丈夫か?」
「っ!」
突然に、琳樹の聞き覚えの無い声がかけられ。
それに驚き身を震わせると、弾かれたように上半身を起こし。 そちらへと目を向ける。
するとそこには、一人の青年が果物を腕に抱えて立っていた。
淡く柔らかそうな薄茶色の、耳に掛かるほどの長さのある髪に。 ほっそりとした華奢な四肢。
その肌は白く、顔の造作は綺麗に整っていて。 一見女性のようにも見えた。
だが、真っすぐに琳樹へと向けられるその瞳には、強い光を抱き。
そこに立つ存在が、『男』であると琳樹に識らせた。
(―――紫の・・・瞳?)
瞳に宿る、その光の強さもさながら。
琳樹は、青年の瞳の色を見つめて。 ほとんど無意識の内に、息を詰めてしまっていた。
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